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どうか秘密を花束に

  • ア-31〜32 (小説|エンタメ・大衆小説)→配置図(eventmesh)
  • どうかひみつをはなたばに
  • 一吾
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 76ページ
  • 500円
  • 2022/5/22(日)発行

  • ■文章・創作のサークル 作家陣による短編集


    埃と線香と茹でささげ 紫りえ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

    闇夜に浮かぶ雪花のような 紫りえ・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

    午後3時のジョアン 一吾・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

    薄皮 一吾・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

    さらけ出したい自分は教えない 織田麻・・・・・・・・・・・・・・・・37

    あなたが知らない私のヒ・ミ・ツ 虹倉きり・・・・・・・・・・・・・・39

    イワシ 白石ポピー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42

    明朗の胎動 白石ポピー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44

    告白前夜祭 福永たも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49

    甚三紅(じんざもみ)の皇女(みこ) ゆにお・・・・・・・・・・・・・53

    エーデルワイスの案内人 望月深景・・・・・・・・・・・・・・・・・・61

    喫茶 エーデルワイス 望月深景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72

    編集 : 織田麻   表紙イラスト : 桜川七帆



    ■「告白前夜祭」


    僕は木箱にミモザの花を一輪供えた。これが一世一代の告白の準備である。

    「なんか緊張してきた。」

    「明日がついにXデーか。」

    放課後、ファミレスで中村はカルピス、僕はコーラを頼んだ。今日は男二人の告白前夜の決起集会である。

    ミカミさんの通う女子中学校にとあるジンクスがあると聞いて、僕はそれにあやかるときめたのは数週間前のことだった。二月十七日に結ばれたカップルは生涯共にすることができる、というジンクスで、思いを伝える方法は木箱にミモザの花を一輪だけいれて渡すだけである。答えがイエスであればミモザの花は二輪になって返ってくるという。

    「しかし進藤が告白するなんて言い出すと思わなかったな。」

    それは僕も同感である。人生初の告白を前に手は汗ばんでいた。彼女、ミカミさんと出会ったのは一年前。塾で隣の席になったのがきっかけで知り合った。ひとめぼれだった。珍しい白いワンピース調の制服と白いハット帽が良く似合っていて、均整なアーモンド形の目、ブラウンの虹彩に引き込まれてしまったのを覚えている。音楽の趣味も合うし、苦手な英語も聞けば親切に教えてくれた。仲良くなりはじめると嫌いだった塾へ行くのもすっかり楽しみになってしまった。一丁前にほかの男子と話をしているところを聞くと恥ずかしながら嫉妬してしまったこともある。そんな彼女が塾を変える、と聞いたのはついこないだのことで僕は激しく動揺した。告白の決め手となった出来事である。

              * *

    しかし、日付が近づいてくるにつれて僕の心はだんだんと弱気になっていった。

    「やっぱ、やめようかなぁ。告白」

    僕はか細い声で木箱の上に手を置きながら中村に伝えた。

    「は?」

    中村はグラスを口につけようとしてやめた。

    「いまさらなにを。ひよってんの?」

    「なんか、こわくなってきた。」

    もういっそのこと、何も言わないで綺麗な思い出としてこの恋を取っておくのがいいような気がしてきた。

    「言えたとしても返事を聞くのがこわい。」

    冷静に考えると望みの薄い恋人ポジションを狙うよりも友達ポジションにおさまっていたほうが安牌だ。それに告白して想い人からお断りの言葉を受け取るのが何よりがきつい。

    ミモザ一輪の中身を想像して絶望する。

    「でも告白しないと進藤の恋心は、ミカミさんの世界では存在しなかったことになっちゃうよ?それってかわいそうじゃない?進藤の恋心が。」

    そう言われた時、だから中村は凝りもせず同じ女の子に一年に三回も告白をするのか、と目から鱗がおちた。自分が好きな人が自分を好きになるという偶然の確率はとんでもなく低い。にもかかわらず相当な頻度で告白する中村は軽率で無計画だと感じていた──。

     < 続く >


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