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ショート・ショート・ナハトムジーク

  • ア-31〜32 (小説|エンタメ・大衆小説)
  • しょーと・しょーと・なはとむじーく
  • 石嶋ユウ
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 80ページ
  • 500円
  • 2022/05/22(日)発行

  • ステキブンゲイを中心に活動するWEB作家、石嶋ユウ。
    活動を始めた2020年春から2021年末までに書いた作品の中から選んだ短編11作品と今回初公開となる表題作
    「ショート・ショート・ナハトムジーク」(前後編形式)を収録した作品集。


    「線香花火の向こうに」

     車で一時間半かけて祖父母の家へとやってきた。庭は相変わらず丁寧に整えられている。家の中から祖母が出てきた。僕たち家族は荷物を下ろし始める。 「こんにちは。久しぶりだね。実くん元気にしてたかい?」 「……おかげさまで」  僕は久しぶりに会った祖母との会話が恥ずかしくなって、どこかぎこちない挨拶となってしまった。
     荷物を家の中へと運び終えた後で、仏壇に挨拶をする。今日はお盆のために父の実家へと帰ってきた。父と祖母が何かを話している。それを他所に母と祖父は、同じタイミングで到着した叔父さん一家と話をしている。手持ち無沙汰になってしまった。僕は何もすることがなかったので、祖母に 「何かすることない?」  と尋ねた。祖母は喜んで 「じゃあ、向こうのスーパーに行ってきてくれない?」  と提案してくれた。
     こうして、僕は近所のスーパーへと歩くことにした。祖母からのスーパーでの任務はいくつかある。今日のご馳走の材料を確保すること。線香が無くなりそうなので在庫があるか確認して来ること。いとこ達と遊ぶための花火セットを買ってくること。この三つを頼まれた僕はすぐに家を出た。
     暑い道を歩くこと五分。スーパーに到着した。僕は真っ先にご馳走の材料を商品かごの中に手早く詰め込んだ。材料を一通り揃えた後で線香が置いてあるコーナーへと道を急ぐ。線香の在庫がまだあることを確認して、今度は線香花火が置いてあるコーナーへと向かう。急ぎ足でコーナーについたがそこには、花火セットは全くなかった。 「すみません。花火セットってありますか?」 「申し訳ございません。ただ今在庫がもう無いんです」
     店員さんに尋ねたが店には無いと言われてしまった。僕は他の物を買って店を出た。どうしたものか。いとこの彩月ちゃんはまだ四歳くらいだから、花火ができないと知ったらきっと大泣きする。それはどうしても避けたい。そう思っていると、道の向こうになぜか屋台が有った。側には高齢のおじさんがいて、おそらく店主だろう。気になって屋台を覗くとそこには花火セットが売っていた。僕は思わず手に取った。探していたものが見つかった。 「これください」
     僕は店主にこう告げた。すると店主は 「七百七十七円ね。お客さん今日はついてるよ」  と言ってくれた。何がついているのだろうか。値段に掛けた小粋な言葉なのだろうか。そんなことはどうでも良いと思いながら、僕は代金を渡して道を急いだ。ふと振り返ると、店主は居なくなっていた。
     買い物を終えたあと、お昼を食べたら眠くなってしまったので僕は和室で寝っ転がっていた。寝そべっていると、ふと十年前くらいに亡くなった曾祖母のことを思い出す。僕がまだ幼かった頃、この家にはまだ曽祖母が居た。かなりの長生きで、僕が五歳の時点で九十歳だった。僕が小学校に入学するかしないかの時期に家に曽祖母の死を伝える電話があったことは今でも覚えている。ランドセルは結局見せられなかった気がする。僕が高校生になった今、もしも会えたら、曽祖母は僕に何て言葉を言うのだろうか。それを知りたい大層な理由はなかったが、とても気になった。気づけば時計は夕方六時を指しており、日がなんとなく落ち始めていた。
     時刻は更に回って夜になり、ご馳走を食べ終えた僕たちは昼間に僕が買ってきた花火セットを開けて、家の庭でろうそくに火をつけて、花火遊びの準備をする。いよいよ、花火に火をつけた。すすき、スパークラー、トーチ、手持ちナイアガラ、…… 様々な種類の花火でいとこ達ははしゃいでいる。僕もついついはしゃいでしまう。遊び疲れて楽しい花火を終え、片付けを始めようとした頃、僕は自分の足元に線香花火の束が落ちていたことに気がついた。どうやら、使い忘れたらしい。大人たちは晩酌を始めてしまい、いとこ達は疲れて眠ってしまった。明日の夜に遊ぶ手もあるが、いとこ達は明日の昼には帰るから遊べない。僕は仕方なく、片付けの手を止めて線香花火を自分だけで楽しむことにした。
     マッチを擦って、ろうそくに再び火を灯す。それから、線香花火の束から一本抜いてろうそくに近づけた。程なくして点火し、か細い炎が四方に飛ぶ。綺麗だった。それを僕は何も考えずに見入る。
    「実。久しぶりだね実ちゃん」  ふと声が聞こえた。


     <続く>


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