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およそ夏のおわり

  • ア-31〜32 (小説|エンタメ・大衆小説)→配置図(eventmesh)
  • およそなつのおわり
  • 藤原佑月/キリチヒロ/武中ゆいか/他
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 210ページ
  • 500円
  • https://www.amazon.co.jp/dp/B…
  • 2020/10/4(日)発行

  •  そもそも明日とは何だったのだろう?
     今や、私の日々には今日しかない。無数の今日、昨日にも明日にも接続しない夥しい数の今日が足元に転がっている。拾い集めようとしても、今日と今日を繋げるための紐がどこにもない。拾っても拾っても、腕の隙間からこぼれ落ちていく。今日。今日は何をしていた? 昨日はどこにいた? 先週は誰と会っていた? その昨日は、先週は、この足元にあるどの日のこと? 全てが今日となってしまった世界で、私はひとり、足元から積み重なっていく今日の山に埋もれ、溺れていく。明日とは今日の次にやってくる今日のことに過ぎず、それは、未来でも何でもない。来て初めてわかる、それがただ今日であり、またひとつ増えただけのもの。明日というぼんやりとしたイメージの中にひとまず片付けておくことができていたあらゆることが、イメージの崩壊によって頭の上から降ってくる。まるでおもちゃ箱が頭の上でひっくり返されたかのように、暴力的に。

     世界のネジが止まろうとしている。歪んだ音のオルゴールが今にも止まろうとしている。奇しくも時を同じくして、私は年度末決算の只中にいた。世界が今にも停止しようというときに、洪水のような時間の中にいた。洪水のような時間もまた、今日しかない時間だった。今日を、ただ今日を、とにかくこなして一日を終えること、そのためだけに生きていた。止まろうとしている世界の中で、私は、必死に息をしていた。山と積まれた仕事への恐怖、それを一瞬で無に帰される世界の気配、あらゆる数字はなすすべもなく増えていく。大気が音も色もなく病んでいく。

     緊急事態宣言が出され、映画館も、書店も、百貨店も、美容院も、飲食店も、次々休業すると発表されたとき、私は安堵した。確かに、安堵していた。この世界は一度止まるのだと、ずっと誰かに言ってもらいたかったのだと気づいた。無理にネジを巻かなくていいと、誰かがそう言ってくれる日を待っていたのだ。
     私は昨日を追いかけることをやめた。明日を探すこともやめた。ただ目が覚めてそこにある今日にだけ、私は存在していた。



    2020年の特別な夏。
    その夏を描いたキリチヒロ「雪解け」をはじめ、
    若手作家を中心とした構成の短編集。
    優しいイラストと文章を書く西岡朝紀が表紙、作品も担当。

    著者:
    Le yusée きさらぎみやび 藤原佑月 キリチヒロ 
    武中ゆいか 大町はな 小野木のあ 橋尾克彦 
    透 亀山真一 多賀優仁子 artoday 華那  
    西岡朝紀(イラスト&作品)

    作品一覧:
    ・藤原佑月 
      桜通りの向こう
    ・キリチヒロ
      大人になっても感情が死なないことは地獄に放り込まれながら救われていることと同義だ
      雪解け
    ・武中ゆいか
      およそ夏のおわり
    ・亀山真一
      贅沢な悩み
    ・橋尾克彦
      日記に書くべき事とは
      京阪の君
    ・多賀優仁子
      白い橋
    ・大町はな
      キセル
      心という名の絵画と、九人の監視員たち
    ・artoday
      東京アダージョ・ともだちだから
      東京アダージョ・多摩川をさかのぼる「夏の川辺の土のにおい」
    ・小野木のあ
      ペットボトルロケット
    ・きさらぎみやび
      縁もゆかりも
    ・透
      目の前に垂れる糸は、蜘蛛の糸か、無二の縁か。
      ぼく、ときどき、ねこ、ときどき。
    ・Le yusée
      ピスタチオ
    ・華那
      何の変哲もないタルトタタンが忘れられない味になった日。
    ・西岡朝紀
      花畑の思い出
      関係を説明できない大切なひと

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