「朔眞……」
呼べば頬を撫でられ、そっと口づけられる。啄むように幾度か口づけられ、そして深く深く唇を朔眞のそれで愛撫された。穏やかで優しい温もりに楓は揺蕩う。
倖陽といる時はせわしなく、だがこの子の為なら何でもできると思える。何時間見つめていても飽きはしない。あっという間に時間が過ぎるとはこのことだろう。けれどそうして心に余裕をもって倖陽に接することができるのは、朔眞が隙あらば守り甘やかしてくれるからであることを楓は知っている。大公邸とサロンの行き来のみで外に出ることのできない楓にとって、この時間は己をリラックスさせるのに必要だった。
クッタリと力の抜けた楓をそっとベッドに押し倒す。すでに湯を浴びしっとりとした肌からは甘い香りが漂っていた。朔眞が楓を抱きしめれば、楓もまた両腕を絡めて抱き着き、朔眞の肩口に顔を埋めて肺いっぱいにアンバーの香りを吸い込む。その瞬間に甘い香りが強くなった。
「発情期ではないはずだけど、とてもいい匂いがする。私を捕らえて離さない、甘い香りだ」
囁いて、やわやわと耳を食む。ピチャッと濡れた音が鼓膜に直接響いて、楓は逃げるように肩をすくめた。無意識のうちに腰が揺らめいてしまう。
「んっ……、匂い、だけですか……?」
オメガのフェロモンだけが好きなのか? と少し拗ねたようにそっぽを向いてむくれる楓が愛しくてたまらないといったように笑みを浮かべ、両手で楓の頬を包み自分の方へと顔を向けさせて、朔眞は深く口づけた。角度を変えて何度も啄み、舌を絡ませる。唇を離せばツゥーっと銀糸がつたった。そっと楓の目元から眼鏡を取り外す。
「まさか。この甘い匂いも、切れ長の綺麗な瞳も、白い肌も声も、ここにある心も……。楓のすべてが私を魅了して止まない」
その言葉を証明するかのように楓の唇や頬、額や耳に口づけしながら朔眞は寝衣のボタンをはずし胸の頂を舐めた。幾度も舐められた乳首はぷっくりと赤く膨れ、それを舌で押しつぶすと楓の腰が浮いた。その隙に楓の腰の下に腕を差し入れた朔眞は絶えず口づけを交わしながらズボンと下着に指をかけズルリと下に引き下げる。
「朔眞……」
アンバーの香りが強くなって、楓を包み込む。その香りが発情期でもないのに楓の理性を奪い取っていった。トロンとした瞳で見つめる楓の頬を撫でて、朔眞は内心でため息をついた。
「もう十分に閉じ込めているとはいえ、サロンにはオメガがたくさんいるし、アルファと全く会わないということもない。倖陽を産んでますます色っぽくなった楓が誰かに目を付けられないかと、気が気でならないよ」
できることならずっと楓の側にいて、この腕の中に閉じ込めてしまいたい。そんなことを真剣な顔で言う朔眞に、楓は愛撫に頬を赤くしながらも苦笑した。
「朔眞、よく見てください。私は美人でもありませんし、可愛げもありません。生真面目だけが取り柄のような私を好きになってくれるのは、あなたくらいですよ」
紅羽や雪月花をはじめとして、サロンには男女問わず美しいオメガが大勢いる。その中でも楓はひどく地味で、時折朔眞に申し訳なく思ってしまうほどだ。オメガはその特性ゆえに見目好い者が多いと言われるが、朔眞と出会うまでの二十七年間ずっと発情期が軽く、ベータと間違われるほどにフェロモンが薄かったことに関係があるのかもしれない。加えて可愛らしいどころか、ひどくつまらない性格をしているなど楓が一番よくわかっている。少なくとも万人に好かれるタイプではない。
そんな無用の心配などしていないで抱きしめてと強請るように両手を伸ばす楓を抱き上げながら、朔眞は何もわかっていない己の番に小さくため息をついてしっかりと視線を合わせた。
「わかってないな。生真面目だからこそ、その瞳を蕩かせて身も世もなく喘がせたくなる。きっちり隙なく身につけられたシャツを引きちぎって、乱れさせたくなる。この、快楽など何も知りませんといったような高潔な姿で……淫らに腰を振らせて快楽以外の何も考えられないようにさせたくなる」
それはただ美しい者や可愛い者を己のモノにしたいという欲望よりも粘質で、麻薬のように脳を犯しつくし、理性をはぎ取ってしまう。楓はその対象に己は当てはまらないと思い込んでいるが、その考えこそが朔眞にとっては恐ろしい。
「まさか……。そんなもの好き、あなたくらい――んぅッッ」
グゥっと会陰を押されたことにより前立腺が刺激されたのか、楓はすべてを言い切ることができず腰を跳ね上げた。ビクビクと震える楓の会陰や両の陰嚢を巧みに揉みこむ朔眞は、熱い吐息を零し身をくねらせる己の番に内心でため息をつきながら、その白い首筋に顔を下ろし強く吸い付いた。唇を離せばそこに真っ赤な花が咲く。
楓が己に無頓着で何を言っても自覚できないのであれば、この身体に朔眞の痕を刻み付けるより他ない。
「楓、こっちを見て」
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