織田 麻「春の順番待ち」「東京といとこについて」
武中ゆいか「セーラー服のスカーフが翻るとき」
yoshimi「その星の元に生まれた人。」
天鳥そら「花降る日」
大町はな「四月の電話」
Le yusée「パリの回想」
亀山真一「桜はまた咲く」
ふむふむ「サクラサイタ」
■「桜はまた咲く」
サクラサク、と言えば合格発表である。いまどき合格通知の電報など見たことないし、僕の場合は推薦で合格発表が十二月だった。それでも桜のイメージは健在で、慣用表現の底力を見せつけられる。
この春、僕のもとに「サクラサク」のメッセージが届いた。縁あってここ半年ほど中学生の家庭教師を務めており、お母様から高校入試の結果をいただいたのだ。
そこで僕の体験談から受験にまつわるちょっといい話をお送りしたかったのだが、見事なまでに何もなかった。
もともと勉強が好きで、塾にも予備校にも通わずにいい高校に入り、そこでいい成績を収め、第一志望の推薦を難なく取り付けた人間の合格体験記などつまらない。教育実習で進路指導の講演を頼まれた際、受験の話はできないと開き直って「青春が未来を創る」と題して全力で今を生きる素晴らしさを説いたくらいである。
結果的にこの講演は「受験校を選ぶポイント」や「受験勉強のテクニック」を語った他の実習生に申し訳ないくらいウケた。車椅子で大学に通い、サークル活動に精を出し、専門は創作だと嘯きながら、こうして教員免許を取るために高校生の前に立つ。やりたいことを全てやってきた僕の言葉には説得力があった。
「普段から文章書いてる子は違うね。『青春が未来を創る』って、タイトルからキャッチ―だもんね」
そんなふうに褒めてくださった担当教官が忘れられない。
本来ならば「不合格に『サクラチル』は似合わない。桜は咲かなければ散ることもないのだ」と言葉遊びを織り交ぜながら、花開くまでの不撓不屈を論じたいところだ。
けれども、受験をさらりとパスした僕の人生がとっ散らかるのはその後なのである。大学の卒業に六年かかり、更にそこから二年半ほど引きこもり、就職した今でも自立とは程遠い状況にある。見事に桜を咲かせてから散らしたわけだ。
しかしこれも、主な原因は厄介な先天性疾患だった。学業不振で留年した先輩のことはいじる同期後輩が、長期入院のために休学した僕には「仕方ない」と口を揃えて言う。明らかにやらかして病院送りになった、自業自得もあったような気がするのだが……。
とにもかくにも、やりたいことに片っ端から手を出して思う存分突っ走るための免罪符を僕は持っていた。ここからは楽しい創作の時間である。
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