「愛しい君は何処へ行く~♪ 僕はいつまで待っている~♪
愛しい君を想っても~♪ 僕はただ独り~♪」
夕日で染まる王都の中心に位置する城の屋上。茶髪の少年が哀しげな歌を口ずさんでいた。
無機質な建物は遠くまで広がっており、その色はオレンジ色に染まっていた。
彼はそんな景色を眺めながら歌の続きを口にしようとしていた。
「遠く遠く君がいても~♪ 想いは決して変わらない~♪」
だが、別の声によってそれは阻まれた。
その声のする方を振り返ると、彼と同じ顔をした黒髪の少年がニヤリと笑いながら立っていた。
彼は近寄ってきて隣に並ぶ。
「ルージュ、探したぞ」
「リージュ……。すまないな」
ルージュの肩をぐっと抱きながら、リージュはさらに笑いながら口を開く。
「そんな気にするなって。どうせ、ここにいるだろうって思ってたし」
「そうか。確かに俺はいつもここにいるな。で、探してたってどうしたんだ?」
「父上が俺たちを呼んでいた」
「……分かった。行くか」
父、そう耳にした途端ルージュの表情はどこか影を含むようなものになっていた。
そんな彼のことを察したのか、肩から手を離した途端リージュも真剣な表情であった。
二人は並び、それはまるで兵士を思わせるような凛々しい姿勢で歩き出し、誰も寄せ付けずにテラスを後にした。
***
機械技術の発達したこの国の名はワード国。かつては平和であったこの国であったが、現在の王の私欲により隣国との争いが絶えなかった。
だが、高度な技術と統率により、誰にも止められない勢いで国の領土を広げていった。
ルージュとリージュ。二人はこの国の王子でありながら、争いには反対である。そのため、父である王よりも国民の信頼は高かった。
幼少期より鍛えられた剣術の腕は誰にも届かないものであり、幾度となく争いのために使われることもあった。
国民を守るためだと正当化して何とかその意思を貫いていたが、まだ少年である彼らにとっては重荷でしかなかった。
それでもまだ、彼らは国民の笑顔に直接触れられていって少しは癒やされているようであった。
時折、二人は城を抜け出して王城近くの街に顔を出すことがあった。そんなとき、国民たちは二人に優しく接し、感謝を伝える者がほとんどであった。
その言葉に救われ、二人は何とか彼らの笑顔を守ろうと剣を握っていられるのである。
最終的に支えるのは互いの想い。過酷な状況はそこまで疲弊させていた。
二人は慰め合いながら、精神状態をなんとか維持してきたが、いつ限界になるか分からない状態が続いていた。
そして今日も、平行線の続く話し合いがされようとしていたのだった。
***
城の中で最も広い玉座の間。その外観はいつの時代も変わらないものである。
そこに、何もかも整っている兵士たちが王の玉座の横に並び、まるで置物が揃っているかのような姿を見せていた。
二人はそこへやって来た。兵士たちの存在など最初から存在していないように王だけを睨むような視線で見る。
重々しい空気のところで、二人は跪いて頭を下げる。
「ただいま参りました」
「うむ。ルージュ、リージュ、そなたらには明日、ハイト国へ向かってもらう。そこで、王と姫を殺せ」
「っ……。父上、なぜそこまでやらねばならないのですか! 彼らとは非常に有効な関係を築いてきたではありませんか!」
「ルージュと同意見です。父上、これ以上争うことに意味などありません。殺してまで得るものに、何があるのでしょうか……?」
無意味だと分かっていても、二人はどうしても王である父に懇願しなければと感じていた。
これ以上国が、民が、疲弊する姿を見たくないという思いがあると同時に、血に染まる父の姿を見たくないと願っていたからだ。
だが、そんな彼らの願いは王には届いておらず、彼らを一蹴するように突然笑いだした。
何事かと二人は顔を上げ、王の姿を見る。
それと同時に、冷え切った視線が彼らへと向けられる。
「お前たちは愚かだ。世界は私が手に入れるために存在している。それを否定するというのか。私の言うことは絶対だ。それを否定するというのであれば、お前たちでも容赦はしないぞ」
「父上……」
気が狂った。
そうとしか言いようがない王の言動に、二人は何も言葉が出てこなかった。
それと同時に、自分たちの意見を一切聞かれずに全否定され、もうこれ以上何をすれば王を止められるのか全く分からなくなっていた。
王が睨みつけるように見下す視線が痛い。それがルージュには非常に辛く感じられていた。
「ルージュ、部屋に戻ろう」
「え……?」
言葉にしなくとも、空気で伝わる辛さがリージュにも伝わっていた。
耳打ちするようにそっと呟き、王に一言も話さないままリージュが先に動く。ルージュの手首を掴みながら立ち上がり、引っ張りながら無言で立ち去っていく。
「り、リージュ」
突然の行動に驚いて声を掛けるが、リージュの力強さに一切抵抗できずに自分の意思に反して動かされていくルージュ。
チラリと振り返ることもなく王の前から姿を消していく二人に、誰も何も言葉を発することはなかった。
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