国土の六割程がエルムの樹に覆われ、資源も豊富な国、エルム・ドーラ。隣国との争いもなく、人々は豊かに暮らしていた。
国に一切の問題がないかと思われていたが、王には子供がいなかった。国民も今か今かと待ちわびており、王にはプレッシャーとなっていた。
しかし今、ようやく待望の子供が生まれようとしている。
王はそわそわとしながら、玉座の周りを歩いている。男はただ待つことしか出来ないと分かってはいるものの、落ち着くことはなかった。
もう何度回ったか分からない。そんなときだった。
少し離れた場所から赤子の泣き声が聞こえる。それが耳に入った王の動きが急に止まった。
目を輝かせながらそちらの方を向く。しばらくし、白い衣装に身を包んだ女性が王の前にやって来た。
「生まれたのか⁉」
「はい! 王子と姫です。王妃様の体調も良好です!」
王は急ぎ足で王妃のいる部屋へ向かった。女性はその後を追いかけるようについて行った。
大きな扉を開けると、きらびやかな部屋があった。その中央にはベッドがあり、女性と赤子が二人横たわっている。
王は喜びを露わにしながら、ベッドへ近寄る。
「陛下……」
王妃は瞳を輝かせながら王を見つめ、微笑んだ。美しいその微笑みに、王は同じように微笑み返した。
「ありがとう。本当によくやった」
「とんでもございません。この子達も頑張っていたのです。陛下、この子達に名前を付けてあげてください」
「良かろう」
王はまず、王子を抱き上げた。
「そなたはグランオーム」
続いて、姫を抱き上げる。
「そなたは、マリアネイズだ」
「素敵な名前ですね」
「凛々しく美しい人間になってもらいたい、私からの願いでもあり贈り物だ」
「まぁ!」
二人は楽しげに笑い合い、部屋中が幸せに包まれていた。
グランオームとマリアネイズはそんな中でも、すやすやと眠っていた。
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