R18BL
「俺の前ではありのままのあなたを見せてください」
男だけの星で、争いの絶えない日々に不満を覚える青年マリスの元に、新たな同室者が現れる。
しかし、入ってすぐに心の奥底に踏み込まれ……
エネルギーを失った星から抜け出した人たちが繁栄のために争う星の、
一般兵×上級兵の下剋上SFストーリー。
1巻2巻のセット販売のみとなります。
アクリルスタンドキーホルダーもあります
マリス→
https://c.bunfree.net/p/tokyo32/20431
クノス→
https://c.bunfree.net/p/tokyo32/20432
~~~~~~~本文サンプル~~~~~~~
シャワールームにやって来たついでに、頭からすっぽりと流した。嫌な汗をかいていたせいか、全身がべたついて気持ち悪い。
まだ、クノスに触られた感覚が残っている。どうして、僕は拒むことができなかったのか。羞恥を覚えながらも僕はクノスの行為を求めていた。
だが、これ以上過ぎたことを考えるのはどうしようもない。これから、クノスと上手くやっていくことだけを考えよう。
「ふぅ……」
全身を乾かしてからシャワールームを出る。濡れた部屋はボタン一つで綺麗にしてくれる。
汚れたものや使ったタオルを仕分けておく箱に入れ、僕は着替える。元通りになったかをもう一度確認し、深呼吸して心を落ち着かせる。
普通に話せる。何も問題はない。
ドアを開けて部屋に戻る。蹴飛ばして床にいたはずのクノスの姿は見当たらない。奥を覗き込むと椅子に座っていた。背中を向けているのでよく分からないが、何かをしている。
「あ、おかえりなさい」
僕の立てた音に気付いたのか、僕の方を振り返る。その手には僕のとっておきの、クランジュースの空のボトルが握られている。
最後の一つだったので残していたそれを取られてしまった。頑張ったときの褒美であったにも拘らず。
僕の中は一瞬にして怒りで染まった。
「何しているんだ! それは俺のものだ!!」
「あ、これ美味しいですね。名前が書いてなかったので自由にしていいものかと思いました」
「一人で部屋を使っていたのにどうして名前を書く必要がある! 最後の一つだったんだぞ」
嗜好品は簡単には手に入らない。決められた日に女たちがここへやって来て、そこで貰わなければならない。次に来るまでに今から少し掛かる。その間、我慢しなければならない。
悪びれた様子もなく、僕の怒りはどんどん大きくなっている。
掴みかかろうと一歩近付いた。手を伸ばすより早く、クノスが僕のシャツの襟を掴んだ。そしてそのまま自分の方へと引き寄せ、唇を重ねてきた。
不意にされたその行為に驚き、僕は固まった。先程は重ねるだけだったが、今度は僕の口腔に舌を入れてきた。
舌先からクランジュースの味が伝わる。程よい酸味に怒りが少し収まるが、違う感覚が押し寄せてくる。
僕はまた動けない。そしてなぜか、再び気持ち良いと感じている。どうして、と自分に問いかけるが全く分からない。
クノスの舌が生き物のように少しずつ動く。まるで、僕の舌を獲物と捉えて完全に捕獲しようとしている。
味がだいぶ薄れた頃、クノスはようやく解放してくれた。僕の顔は再び火照り、腕で顔の下半分を隠す。
「すみません。でも、これで味わえましたか?」
「そ、それは……」
確かにそうだ。おまけに快楽まで堪能していた。全く否定できない。
認めてしまえば楽になるが、認めてしまえば今までの行為まで認めてしまうように思える。それだけは、自分のプライドが許さなかった。
しかし、クノスの問い掛けにどう応えればいいものか。否定したところで再び否定してくるであろう。
「……まあ、そんなことはどうでもいいですけど」
「えっ……?」
「俺の前では、ありのままのあなたを見せてください。僕、というのが本当のあなたでしょ?」
「それは……」
クノスを蹴り飛ばしたとき、うっかり口を滑らせていたことが頭によぎる。今まで注意していたが、ついに他人に露呈してしまった。
しかし、クノスは僕を攻めていない。柔らかな笑顔を向け、言葉を続けてくる。
「俺は、素のアルロベド・マリスと接したいです」
「……分かった。僕からも提案がある。二人きりのときは敬語使うのやめてくれ。きっと、年が同じはずだ」
僕が人より上にいることは理解しているが、敬語を使われると違和感を覚える。
誰かと同じ部屋を使っていたときは普通に話していたので、そのときの感覚が抜けきれず、懐かしくも感じる。
自由時間くらい、何も意識しない対等な関係でゆったりとしたい。
「了解」
そう言って、クノスは僕に手を差し出してきた。僕はそのままその手を重ね、握手した。
先程とは打って変わり、獣のような恐ろしさは一切感じない。ただ純粋に、同室になったから優しく挨拶をしてくれたような気がする。
「あ、俺は一八だよ」
「やっぱり一緒だ」
いくら成長が早かろうと、言動や雰囲気である程度の年齢は推測できる。
久々に、同い年の人と対等に話せて僕は心が踊っていた。自然と笑顔になり、心地が良くなっていく。
最後に誰かと対等であったのはいつだっただろうか。
ふとクノスの顔を見ると、同じように笑っている。こんな優しい表情も出せるようだ、と新たな発見をした。
そういえば、総長は彼のことを前衛としては新人と言っていたが、どういうことだろう。今までは何か別のことをしていたのか。
ロベドは、その人の適正や相性によって様々なところへ配属される。基本的にずっと同じところにいるが、怪我によって前衛にいた者が後衛に行くことによって移動することはある。しかし、後衛に行ったものが前衛に出てくることはない。
前例のないことに理由が気になる。聞いても大丈夫だろうか。
コンコン―――
口を開こうとしたそのとき、ドアをノックする音が聞こえた。僕はドアまで駆け寄り急いで開ける。
「はい」
「お疲れ様です。今から会議を行うので、アルロベド・マリスのご参加をお願いします。場所はいつもと変わりありません」
「分かった。伝令ご苦労」
僕よりも若い伝令役のロベドが敬礼をしながら僕にそう伝えてきた。短く返事をし、ドアを閉める。
急な会議はたまにあるが、夜遅くに行うとは珍しい。
無意識のうちに溜め息を漏らしながら奥へ戻る。クノスは何事かと問うように僕の方を見ている。僕は無言のまま奥のクローゼットへ行き、正装の長ランを取り出す。ズボンを脱ぎ、正装へと着替え、上着を羽織る。
ようやく着替えた僕はクノスの方を振り返り無言の問いに答える。
「僕はこれから会議に行ってくる。鍵は開けておいてくれ」
「分かった。いってらっしゃい」
それだけ伝え、ヒラヒラと手を振るクノスに見送られながら僕は部屋を後にした。