【あらすじ】
横暴な義父から解放された智世は南と結ばれ、中学校に入学する。一方、智世を救った南もまた、幼い頃に父親から虐待を受け、心に傷を負っていた。父に外見が似てきたと気付いた南は急に髪を金色に染め、眼鏡も変えてしまう。
1話目/「南の変化」…攻め視点メイン。親から受けた傷を抱えて生きる南の話。
1.5話/「蜜と少年」…その後のラブシーン。(攻め視点)
2話目/「ハッピーアニバーサリー」…受け視点。ふたりで出会って二周年を祝ってケーキを食べるはずが、いつの間にか生クリームまみれになって攻めに頂かれてしまうお話。
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【お試し読み】
「じゃあ、また来るね。来るときは連絡するように気を付けるから」
玄関に佇む私服姿の智世(ともよ)はまだ小学生らしさが抜けきっておらず、やや大きめのパーカがやけに可愛らしく映り、出会った頃を思いだしてしまう。そういえば、学ランも三年間着るのだからと言って大きめのものを購入していたが、あの姿もとても愛らしかった。
智世は相変わらず隣の区に住んでいる状態だが、なにかあればすぐに車を出して智世を迎えに行けるようにしている。智世も中学入学と同時に、やっと自分専用の携帯端末を持たせてもらえるようになった。
「彩(あや)ちゃんや智世くん自身の迎えがいるときは、電話で呼んでくれたらいいよ」
「和人(かずひと)さんは僕を甘やかしすぎだよ。……でも、ありがとう」
ほんのりと頬を染め遠慮する智世を見て、南はどうして今日、彼を抱かなかったのかと後悔した。気が付けば、まだ小柄な少年を抱きしめていた。
「ちょっ……。く、苦しい、和人さん!」
「ごめん、智世くんがかわいくってつい……。今日はH出来るチャンスだったのに、もったいないことをしたなぁ」
しみじみと呟くと、智世の顔がより一層赤くなってゆく。いつもは積極的な智世が、我慢していたのだろうか。
「ぼ……僕、ほんとはずっと待ってた。けど、和人さんが髪を染めていつもと違う人みたいで言いだしにくかったんだ」
「智世くん……。じゃあ、キスだけでもしようか」
智世の背丈にあうように腰を屈め、智世の肩に手を置いて唇を重ねる。唇の合わせ目から滑り込ませた舌を、口蓋や歯の付け根に這わす。智世が舌を絡めてきたので、思い切り舐ねぶってやる。唾液が溢れそうになるまでそうやっていると、智世の膝がガクリとくずおれた。
「ずるいよ、別れ際にこんなのするなんて」
潤んだ瞳をした幼い恋人は非難めいた言葉を残し、腕からすり抜けるようにして去ってしまった。
ふぅ、とため息をついて玄関の施錠をする。明日になれば、思い切り愛してやろうと思いながら。
夕食を終えた南は、歯を磨くため洗面台に向かった。自分の姿が鏡に映る。金髪に赤い眼鏡の痩せた男。服装は至って地味なのに頭だけが派手で、浮いた感じがする。どこからどう見ても日本人が染めました、という違和感が拭えない。あまり似合っていない気がする。
「はぁ……」
思わずため息が洩れる。実父に似てきている自分の姿がいやになって、こんな髪にした。金茶色などではなく、はっきりとあの男と違うと分かるような色ならなんでもよかった。ただ、あまりに奇抜な色だと目立つから金茶にしただけだ。
こうやって自分一人で暮らすようになると改めて感じるのだが、父親の顔色を覗って過ごす日々は今考えると異常だった。幼い頃はなにも疑問に思わなかったが、暴力を振るわれることが虐待というのだと、母との二人暮らしでまともにテレビを見るようになってから知った。
(俺はだれにも暴力なんて振るいたくない。あの恐ろしさを知っているから)
もし、自分が衝動的に暴力を振るってしまうとしたら、実の父親に対峙したときだけだろう。それほどに奴を許せない。なぜ、どうして自分たちだけがあんな親の元に生まれてしまったのか。弟は命まで奪われてしまった。
(あいつはもう、自分がなにをしたかなんて忘れてしまっているだろう。だけど幼い頃の怖かった記憶や、ゆうきを亡くした喪失感だけは、忘れようとしても何度も甦ってくる)
智世を自分の実父と似た男から引き離すことが出来たのは、幸運といえるだろう。彼が義父に直接手を出されたのは最後に会ったときだけだから、まだ傷が浅いのではないかと思う。
『大きな声や暴力に怯える子供がどんなに傷ついているか、分かりますか? あなたのような大人がいるから、子供は一生苦しむんです』
智世を助けに行ったとき、彼の義父に対して放った言葉は、ほとんど自分の本音だった。
自分のような子供を増やしたくない。せめて被害に遭った子供たちへなにかしてやれれば、と思い、少し前から児童養護施設へ毎月援助している。彼らの人生が、少しでもましなものになるよう祈らずにはいられない。
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