三週間の一人旅。エコノミークラスですから席は狭い。
大阪からオランダまで十二時間。
結構遠い。
右に座ったのが金髪の若い娘さん。
左に座ったのが日本のおじさん。
このおじさんが喋りかけてくるんです。
「どこに行くんだ」
「オランダです」
「ほう、一緒だ。奇遇だな」
オランダ行きの飛行機ですから、当たり前やと思うんですが。
「どれぐらい行くんだ」
「三週間です」
「何の仕事だ」
どんどん質問してくるんです。しかし、「講談師です」と答えると、「講談一席やってくれ」と言われるのは確実です。のんびりしたいので、曖昧に答えようと思いまして、
「人に言えるような商売じゃありません」
すると、ますます興味を持ちましてね。
のらりくらりと適当に返事をしておりますと、いつの間にか、物語が出来てしまいました。
「私は寿司職人でしたが、この度、恋人に振られたのをきっかけに、長年の夢であった画家になる為に、ヨーロッパへ修行しに行く」
こんな話になってしまいまして。
実は、このおじさん、オランダで寿司屋を経営していて、丁度、三日前に寿司職人が辞めてしまって大変困っている。
「是非、うちの店に来ないか。実はな、わしの兄がオランダで画家をやっているんだ。若いうちはなかなか喰えんから、寿司屋でアルバイトをして、休みの日に兄のところで絵の修行をすれば良い」
「いい話ですね」
と言ったんですが、よくよく考えますと、私は画家志望の寿司職人じゃないんですね。
丁寧にお断りしました。
そんなお喋りをしている内に、オランダへ到着。
空港から可愛い電車に乗って、一番繁華なアムステルダムへ。
初日の宿だけは、日本からインターネットで予約していきました。イングランドホテルという名前。オランダに行くのに何でイングランドかわかりませんが、安かったのです。
ところが、ホテルに着いてビックリ。予約が出来ていない。
「日本人です。予約はありませんか?」
「ありません」
あちこち電話してくれて、
「アメリカンホテルなら空いてるわよ」
「ちなみにそこは安いホテルですか」
「高級ホテルよ」
「……」
予算が足りないので、近所のホテルを紹介して頂きました。
小さなホテルの地下室。客室というよりも、倉庫を改装したようなところ。
それでも宿無しになるよりはましです。
(続く)