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愛はきっと不平等(抜粋)メタセコイア第16号収載

  • B-35 (小説|純文学)
  • あいわきっとふびょうどう
  • よしむら 杏
  • 2019/11/20(水)発行

  • (抜粋)

     一ケ月ぶりだった。軽く食事していつものラブホテルに行く。おきまりのコースだけれど、奏人の「最近、仕事が忙しくて」という言い訳めいた言葉で週一が、二週間に一回になり、一ケ月に一回になり、そのうち自然消滅しそうだった。あらがうべきなのか、友里は分からなかった。十年も付き合えばそういうものなのかもしれないし、倦怠期なのかもしれないし、もう別れが近いのかもしれない。泣いて抗議したり、怒りをぶつける気持ちもない。感情を浪費しない。それが最近の友里の心情倫理だ。姫路から戻ったとメールがあってホイホイ誘いにのってしまった。  パネルで部屋を選ぶと、ジジジーッと音を立てて部屋番号が書かれた小さな用紙がプリントアウトされた。無人のフロントに突如として従業員が現れて、お帰りの際にお持ち下さいとプラスチックの札のようなものを渡す。こういうホテルは、従業員と顔を合わせるのがタブーなのか、極力、姿を現さないようだった。希に、ルームナンバーがチカチカした部屋に入ろうとドアを開くのと同時に、隣の部屋からベッドメイキングを終えた清掃員と鉢合わせしそうになることがある。そんな時も、さっと姿を隠す。黒子に徹する。それでも人の気配はすぐ側でする。部屋の精算機にお金を入れて、ロックが解除されエレベータに向かう時も、開きかけた非常階段のドアがさっとしまる。監視されているような落ち着かない気分になる。エレベータで他のカップルと一緒になることもない。  奏人はセックスの前もシャワーを浴びない。友里にも浴びなくていいという。匂いに敏感な妻に勘づかれるのを危惧しているようだ。「のりちゃん、犬並みの嗅覚だから」と笑っていう。夜風に当たれば、ボディソープの匂いなんて消えるだろうと思うけれど、もしかしたら指摘されたことがあるのかもしれない。ラブホテルのアメニティは全て無臭のモノにすべきだ。 「ビールとって」  備え付けの家具の中に冷蔵庫が隠れている。木目調の収納扉を開くと旅館みたいな小型の冷蔵庫が現れる。ボタンを押したらカチッと音をたて透明のプラスチックの扉が開き、中からアサヒスーパードライを取り出す。奏人は几帳面に上着とスラックスをハンガーにかけている。順番があるらしい。ワイシャツとネクタイもかけ、やっと裸になるとベッドに寝そべった。  奏人はなぜ、キケンを犯してまでも自分とセックスをするのか。友里も自分がどうしてセックスをするのか、わからなかった。離婚で憔悴しているとき、支えてくれた奏人には心底感謝している。その気持ちと、裸になって抱き合い、こうしてお互いの性器を出し入れし、繋がる行為は肉体的に必要なのか、精神的に必要としているのか、答えはでなかった。

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