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白い闇(抜粋)メタセコイア16号収載

  • B-35 (小説|純文学)
  • しろいやみ
  • 和泉真矢子
  • 2019/11/20(水)発行

  • (抜粋)

     奏楽の女性がオルガンの前に着いた。黒いローマンカラーのシャツと背広に着替えた牧師が分厚い聖書を抱えて、世話係りの役員と話している。後の方がざわざわし出した。振り返ると大きく開けられた扉の向こうから、受付を済ませた参列者たちが、それぞれ式次第と賛美歌の書かれた冊子を持って入ってきた。恒子は緊張した。 「来るかも知れない……」  左足の踵をぐんと伸ばして、精一杯真っ直ぐに背筋を伸ばした。  昨夜、美和の傍を離れてトイレに入っていたとき、便座に腰かけたまま左足の靴を脱いだ。やはりストッキングの先の親指の部分が少し破れかけている。履き替えようかどうか迷った。椅子席だから、靴を脱ぐことはないだろうし、食事が終わればホテルに戻るだけだ……。先端の縫目から覗いている親指の爪を見ながら躊躇していると、パウダールームから圭一のいとこらしい女性の声が聞こえてきた。 「光代ちゃん来るかしら?」 少し間が開いて、 「さあ、どうかな? 圭ちゃん、光代ちゃんとこのお葬式には来なかったやんか。叔父さんのときも叔母さんのときもやわ。だから、光代ちゃんも、来ないのと違う? もし来ても、圭ちゃん、奥さんがいるんよ。二人ともどんな顔して会うたらええんよ?」 「そうや、ややこしいね。けど、弘美ちゃんは会いたいのと違う?」  ひろみちゃん……。その名前を聞いたとき、恒子は息を詰めた。 「そうやろうなぁ、お父さんやもん」  同じ調子で、もう一人も「そう、正真正銘のお父さんやし……」と、呟いた。 「そう言えば、弘美ちゃん、あのときは高校生ぐらいやったかな。叔母さんのお葬式のとき、式場の入り口の陰で、一人でずっと立ってたの見たわ。あれは絶対に圭ちゃんが来るのを待ってたんやわ」

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