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ピアニストの恋ごころ

  • E-15 (小説|BL)→配置図(eventmesh)
  • ぴあにすとのこいごころ
  • 高梨 來
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 178ページ
  • 600円
  • 2016/06/12(日)発行
  • 創作男女│文庫│ 178頁 │ 600円 │ 16/06/12


    ピアニストの彼と、まだ何者にもなれない私。


    私の恋人(と言ってもいいのかまだ少し躊躇われる)は鍵盤弾きで、毎日いろんなバンドに呼ばれては音を届ける事に忙しくしているらしい。
    そして私はと言えば、そんな彼の足元にも及ばないつまらない高校生だ。

    25歳ピアニスト×17歳女子高生。予め住む世界の違う二人が緩やかに奏でる、かけがえのない日々。WEB再録+書き下ろしの連作短編。2014年に発行した初版に加筆修正と書き下ろしを加えてリニューアルした第二版です。 お互いさん付けで呼び合う恋人たちの淡い恋模様と学校生活、女の子の友情。 スピンオフは主人公の親友と彼女の恋人の話。


    ☆試し読み☆

    「別にこんなのなくたって何でもするけど、荘平さんはなにもしないで良いっていうじゃない? だったらチケット制にしようと思いまして。ほら、そしたら気軽に頼めるでしょ? 私だって荘平さんの役に立てるってところを見てほしくてですね」
    「桐緒さん……?」
     紙束を手にしたまま、堪えきれないと言った様子で肩を揺らして、途端にくすくすと荘平さんは笑い声をあげる。
    「ちょっと、笑わないでくださいよ。そりゃあおかしいでしょうけど」
    「笑わないって無理じゃんこれ。だってこれ、桐緒さんがいちから手書きで作ってくれたんでしょ? もー、むちゃくちゃかわいい。ずっと使わないでとっておく。おじいちゃんになるまでずっと持ってて、孫が出来たら見せびらかす。すっごいかわいい。桐緒さんほんっとかわいい」
     笑いながら、隣あった体をぎゅっと寄せながらきつく抱きしめられる。身動きがとれないまま、衣服越しに微かに伝わるぬくもりや骨ばった骨格の感触、微かに耳のあたりをくすぐるやわらかな髪の毛、石鹸と柔軟材、ヘアワックスとコーヒー、それにほんの少しのたばこの匂いが混ざった彼の香りに包まれるのを感じて、胸がぎゅうっと軋む音を立てる。
     こんな風に、ふざけたふりでじゃれつかれるほうがふつうのスキンシップよりもずっと恥ずかしいし、ずっと胸が痛む。何でなのかなんて、たぶんずっと分からないままだろうし、分かりたいとも思わないけれど。

    「桐緒さんさー、いいけどこれ、お仕事内容が足りないよ」
     耳元に唇を寄せ、不格好な手作りチケットの束をひらひらと私の目の前でかざしながら荘平さんはいう。
    「桐緒さんがぎゅーってしてくれるってのと、桐緒さんのほうからキスしてくれるってのと、あと、荘平って呼び捨てで呼んでくれるっていうの、追加でお願いします」
    「最後なんですか、最後」
    「え、難しくないでしょ。ていうかそこなの?」
     答えるその間も、弄ぶようにしなやかな指先でそっと、髪を掬っては払うその仕草を繰り返す。
    「あと、添い寝してくれるってのも追加でお願いします」
    「だんだんいかがわしくなってきてませんか?」
    「いやほらそこは、お年頃ですから」
     髪の束をかき分けるようにして、露わにされた耳にふっと吐息を吹きかけられる。途端に顔まで真っ赤になるのを分かっているくせに、わざわざそれをする意地悪さにますます身動きがとれなくなる。
    「荘平さ……」
     さすがにふざけすぎたと思ったのか、抱きすくめられた力がゆるゆると緩まる。束縛されていれば身動きがとれなくって苦しいのに、離れていくと途端に不安になって胸が痛む。いったいどうなっているんだろう。こんなわがまま、知られたら嫌われるのだろうか。もどかしさに唇を噛みしめていれば、いつもそうするみたいに瞳を細めながら、ふわりとやわらかに数度、髪を撫でられる。
    「ごめんね、ふざけすぎました。怖かったよね?」
    「そういうのじゃなくて……」
     好きすぎて怖い、なら時々ありますよ。正直なところ。心の中でだけそう答えながら、反省の意味を込めて今度は自分から、ぬいぐるみを抱き抱えるみたいに子どもっぽくぎゅーっと抱きつく。
    「あー、すっごいポイント回復してる気がする。温泉入るより効く気がする、ぜったい」
    「……大げさです」
    まんざらでもない気分のまま、照れくささから目を逸らせば、いつものあの優しい声がそっと降ってくる。
    「あのさ、桐緒さん。名前、呼んでくれない?」
    「……荘平さん」
    「いやほら、そうじゃなくて」
    ぽんぽん、と促すように数度、頭を撫でられる。
    「……ソウヘイ」
     カタコトの呪文みたいにぽつりとそう呟いて、微かに熱くなった耳をぴったりとシャツ越しに胸のあたりにくっつける。微かに聞こえる心臓の脈打つ鼓動の早さが伝わる。こうしているから? 名前を呼んだから? 自分と同じくらいかは分からないけれど、確かに彼もこの胸の高鳴りを感じてくれている。そのことが無性に嬉しくて、それでいてなぜだか少し苦しい。
    「桐緒――」
     答えながら、どこか遠慮がちに思えた背中に回された腕の力が僅かに強まる。
    「大好きだよ。桐緒が居ないと生きていけないなんて言ったら困るだろうけど、困らせたいくらいには好きだよ」
    「荘平さん……」
     胸の中で聞く少しくぐもったその声には僅かに切実な色が滲むかのようで、途端に胸の奥がさぁっと音も立てずに泡立つ。
    必要としてくれている、求めてくれている。そのことがこんなにも嬉しくて、それでいてほんの少しだけ怖い。こんな風に想ってもらえたら、際限なく求めてしまいそうになる。
    「あのね、荘平さ」
     ゆっくりと顔をあげながら答えれば、制するようにそっと、唇に指先を押し当てられる。
    「だーめー」
    「なに……?」
     要領を得ないままで居れば、わしわし、と犬か何かを撫でるみたいな無骨な手つきで髪を撫でながら告げられるのはこんな一言だ。
    「桐緒って呼んだでしょ、いま。俺が呼び捨てにした時はお互い呼び捨てのルールでお願いします」
     ペナルティがあるかもしれないよ? どうしますか? おどけた態度でそう答えながらも、瞳の奥には隠しきれない熱の余韻が残る。時折見せてくれる、このくすぶったような熱くて甘いこの色が好きだった。ずっと閉じこめて、鍵をかけた自分だけの宝箱にしまっておきたいくらいに。
    「荘平……」
     ちゃんと漢字の響きで言う。いつもの発音から「さん」を抜いて。ただそれだけなのに、いやに緊張している自分をおかしく思いながら。
    そのまま首筋にそっと手をかけて、引き寄せるようにしながら乞われた通りに自分からキスをする。いつもそうするように頑なに口を閉じられてしまうから、唇のほんの先で淡く触れるだけだけれど。


    ☆sample☆

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