【作者の想像世界の創世神話三作目です】
奥底の神に呪われた大地(おおつち)の神が姿を消したあとの世界は冷たく乾いていました。大地の神の力を手に入れた奥底の神は地上に出て、悲しむ大風の神に共に世界を調えようと持ちかけます。大地の神の加護を失った生きものたちは奥底の神に頼るほかはありませんでした。
さらに奥底の神は三つの神の力をあわせた強大な神を創り出そうとしますが、それは思いもよらない結果を生むのでした……。
※表紙のデザイン、紙の種類が見本と違う場合があります。
第三話なので、ネタバレ内容になります。ご了承の上お読みください。前回のあらすじと冒頭の詩の部分は省略しています。
大地の神が姿を消したのち、大風の神やその下部たち、生きものたちは大地の神を探しまわりました。居所の周りはもちろん、遥か果てまで廻って目を凝らしても、その名を呼び続けても、どうしても見つけることはできませんでした。悲しみの海に沈む大地の神のすぐ近くを通ったときもその姿は誰の目にも入らず、呼ぶ声はその耳には届きませんでした。
奥底の神がかけた呪いのせいでした。
そんな呪いがあったとは誰ひとり、大風の神さえも気づきませんでした。生きものたちは大地の神は奥底の神に囚われているのだろうと嘆きました。
大地の神がそれまでの居所を離れて遠ざかったせいで、世界は潤いと温もりをなくし、乾いて寒くなってきました。大風の神は大地の神を失ったことを嘆き悲しみ、ただ地を抱きしめるように伏せるだけでした。そのせいで空気はよどみ、ますます世界は暮らしにくくなっていくのでした。どっしりと形づくっていた山は崩れ、清らな水が流れていた川は干からび、その川が削ってできた谷は崩れた山の土砂で埋まり、生きものたちが心地よく住めるところは減っていきました。
大地の神が愛した草木はしおれ、生きものたちはだんだんと弱っていきました。草木がすっかり枯れると、世話をしていた歩く大樹――森おとこたちは悲しみにくれて眠りにつきました。生きものたちも次々と石のように動かなくなり、砂となって崩れていくのでした。
下部たちは苦しむ生きものたちに祈り、その体をさすって励ましてまわりました。そうやって下部の内に満たされている神の恩恵を分け与えていたのですが、その力を使い果たして動かなくなる者も大勢いました。
それでも下部はひたすらに生きものたちを護ろうとしましたが、神に頼れぬこの状態がいつまで続くのかと思うと不安ばかりが募っていくのでした。
のちに『永い永い冬』と呼ばれたこのころ、奥底の神は戦いで受けた傷を癒すために地中深くで眠っていました。やがて、大地の神が目を覚ます前に奥底の神は起きました。奥底の神は大地の神から奪った力が、自分の姿を少し変えているのに気づきました。その内面もまた変わりつつあったのですが、こちらには気づきませんでした。
その力に押されるように地上に出た奥底の神は、それまでは身に刺さるほど冷たく鋭かった空気が、優しく包むようになっているのを感じました。とはいえ、地上の生きものたちには寒くて重苦しい空気なのでしたが。
奥底の神は大風の神の居所へ向かいました。大地の神の雰囲気を持つその姿に誰もが驚き、希望を持って集まって来ました。けれども、すぐにその力が奥底の神のものとわかって落胆するのでした。これから何が起きようとしているのか、下部たちは恐る恐るその後をついて行きました。
大風の神は伏したままで、乾いた砂に体が半分埋まっていました。その瞳は固く閉じられ、聞き取れないほどの小さな声で大地の神を呼び続けていました。その呼び声がかすかな風となって、空気がかろうじて腐らずにいられたのでした。
奥底の神は大風の神に声をかけました。
「起きよ、大風」
大風の神はそれまでの下部にそうしたように、伏したまま応えました。
「我は大地を失ってしまった。もう何もする気はおきない」
「わしがいようぞ」
大風の神は顔を上げました。奥底の神は大地の神に似た姿となっていて、その声音もずいぶんと柔らかくなっていました。
「そなたは奥底の神。なぜそのような見目形なのか」
「戦いの中、あれの力をわしが得たからじゃ。こうして、地上を歩くこともできる。そして、世界を美しく調えたいというあれの思いもまた、わしに受け継がれた。わしは使命を得たのじゃ」
奥底の神は満足そうに言いました。
「なんと。確かにそなたには大地の力を感じる。しかし、なぜ大地は我が元へ帰らないのか」
「あれは眠っておる。ここには永遠に戻らぬじゃろう」
それを聞いて大風の神はうつむき、地に囁くように言いました。
「そなたの言うことは本当であろう。しかしいつか、我は大地に出会う。必ず」
その言葉に奥底の神は顔をしかめましたが、言いました。
「わしはあれやそなたよりも大きなかけらじゃ。ゆえに力もより強い。加えてあれの力を得たわしが、その代わりになろうぞ」
「ああ、しかし。そなたは大地の神ではない。代わりなどなれるはずはない」
「まったくの代わりにはなれぬであろうが。しかし、いつまでこのままでいるつもりかえ」
その言葉に大風の神は体を起こし、あたりの空気が動きました。下部たちは驚いてどよめきました。奥底の神はそれを見やって言いました。
「このようにいとし子らに苦労をかけて。そなた、世界を創り、調え、飾るのであろう」
「……そなたの言うとおり。動かずにいては、いつまでもこのままなのだ」
大風の神は立ち上がり、両腕を天へ差し伸べました。その力強く美しい姿に下部はもちろん、奥底の神も見惚れました。と、大風の神の手から風が湧き起こり、渦を巻いてよどみを吹き飛ばしました。あたりはさわやかな空気に満ち、風は眠っていたものを次々に起こしていきました。
その清清しさは大地の神の眠る海にまで届いてかの神を目覚めさせました。大地の神の力を手に入れた奥底の神だけがそれに気づきましたが、今は何もできませんでした。
下部たちは眠りから覚めた者たちと手を取りあって喜び、大風の神に感謝しました。大風の神は下部や生きものたちに言いました。
「我の不甲斐なさでおまえたちには永い間苦労をかけてしまった。これからはこの奥底の神と共に世界を創ろう」
下部や生きものたちは不満の声を上げました。
「わたくしたちは散々その奥底の神に苦しめられてきたのです。大風さまのお言葉とはいえ、すんなり納得できるはずはありません」
下部のひとりがそう言うと、他のものも同意しました。奥底の神は怒りましたが、大地の神のかけらがそれを押さえて和らげたので堪えることができました。大風の神は奥底の神を気づかいながら、下部らと生きものたちを見まわして言いました。
「しかし、大地の神の力は欠け、そのゆかりのものたちも生きる力を欠いている。そして、その欠けた力を持っているのは奥底の神だ」
その言葉は、生きものたちは否応なしに奥底の神に頼らなければならないことを示していました。生きものたちは気を落とし、下部たちはそんな力に縋るくらいなら砂に還るほうがましだとも言いました。
その様子に奥底の神は堪えきれず、ついに激しく怒りました。一瞬のうちに大地が揺れて引き裂かれ、熱い泥が噴き出し辺りは炎に包まれました。大風の神はあわてて奥底の神を押さえこみ、雨を降らせて落ち着かせましたが、たくさんのものが炎に焼かれたり、地の裂け目に落ちてその姿を消してしまいました。
あまりの凄まじい怒りに打ちのめされた下部や生きものたちは、奥底の神を受け入れることを渋々承知しました。奥底の神はやっと機嫌を直し、生きものたちの欠けた力を補うことを約束しました。
けれども奥底の神は、大地の神のように『初めから終いまで』面倒を見る気は失せていました。かわりに、自分が初めから持っていた力のほうを生きものたちに分け与えました。
それは、『奪う』力でした。
同じころ、目覚めた大地の神は居所への道すがら、植物たちに『生きる意志』を与えていました。大地の神の力を奪ったことで、遠く離れたかの神の行動を窺い知ることができるようになった奥底の神は、同じ時に似たことを行って、大地の神が目覚めたことを知られないようにしたのです。
奥底の神の力を与えられた生きものたちは葛藤に苦しみました。なぜなら、他のものから命や力を奪って自分の命をつないでいかなければならなくなったからです。
言い換えるならそれは『食べる』ということでした。
生きものたちは苦しみながらもまずは植物を食べました。たとえ枯れていても草木には大地の神の慈愛が残っていたので、それを取り入れたいという切なる思いでした。その植物には大地の神が与えた『生きる意志』が地を通じて含まれていました。間接的にこれを得た生きものたちは、生き存えたいと強く願うようになり、その望みのために自らの身体も内面も変えていきました。生きることを最優先に考えて次第に葛藤が薄くなり、進んで『食べる』ようになっていきました。
【サンプルはここまでです。ピクシブでは冒頭の詩+もう少し長く載せています】
こちらのブースもいかがですか? (β)
ノア人魚伝説 チョコミント勅命 沢澤 大和雪原 湯坂町書肆 超能力戦争の退役軍人 甲賀書房 Non Quoquo Modo 蛹見文 小泉スロウ