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くつをはいた神さま(神話シリーズ2)

  • 南1-2ホール | J-76 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • くつをはいたかみさま
  • 遠野みづき
  • 書籍|B6
  • 36ページ
  • 200円
  • https://www.pixiv.net/novel/s…
  • 2009/8/16(日)発行
  • 【作者の想像世界の創世神話二作目です】
     呪いが解けた大地(おおつち)の神は、大風(おおかぜ)の神の元へ帰ろうとお供の灰色の蛇を連れて歩きはじめました。自分を陥れた奥底の神の悲しみを知った大地の神は完全だったその力が欠け、蛇は少しずつ世界が変わっていくことに気づくのでした。
     あるとき、大地の神と蛇は奥底の神の力で地中に引きずり込まれてしまいます。永い時が過ぎ、そこへ金髪の兄弟が安住の地を探してたどり着いたのでした……。
    ※表紙のデザイン、紙の種類が見本と違う場合があります。

     以下、冒頭です。第二話なので、ネタバレ内容になります。大したことはありませんが、ご了承の上お読みください。前回のあらすじは省略しています。


    「くつをはいた神さま」

     目覚めた大地(おおつち)の神は側についていた蛇と共に水から上がりました。地上は乾ききっていて、足を踏み出すと土が煙のように舞いあがりました。けれどその足跡はしっとりと潤い、黒々とした土から緑の芽が生えてくるのでした。
     大地の神の力が戻っているのを見て、灰色の蛇はうれしくなりました。
    「大地さま、大風さまの元へ戻るのですね」
     蛇は言いました。大地の神はうなずき、それまで沈んでいた広く深い水を見やりました。蛇も波紋の広がる青い水を眺めました。
    「呪いから生まれたとは思えない景色ですね。なんとも心の落ち着く深い色です」
    「この大水が深い青色なのは、わたしにかけられた呪いが溶け込んだからでしょう」
    「では、この水は呪われているのですか」
    「いいえ。呪いは清められ、害はありません」
     大地の神はかがんで水をすくいました。手の中の水は無色透明でした。蛇はほっとして、大地の神の手から水がこぼれるのを見ていました。
    「呪いはわたしから失せましたが、大風はわたしがわかるでしょうか」
    「呪いが消えたのなら、きっとわかってくださるはずです」
    「それを知らせようにも、ここは彼の風が吹いてはいません」
     大地の神の言うとおり風はなく、見渡す限り動くものはありませんでした。ただ乾いた大地が太陽の白い光に照らされて広がっているだけでした。
    「では、地上をあまねく照らすお日さまにお頼みしてはどうでしょう」
     大地の神は空を見上げ、首を振りました。
    「天のお方にわたしのことで何かを頼むわけにはいきませぬ。わたしはそのような立場ではないのです」
     蛇はその言葉の意味を知りたかったのですが、聞いてはいけないような気がしました。代わりに、蛇はもうひとつの思っていたことを言いました。
    「ともかく、居所に帰ってお二方が力をあわせれば、今度こそ奥底の神を退治できますでしょう」
     大地の神は目を伏せました。
    「呪いと共に、奥底の神の悲しみも怒りもわたしの中に注がれました。わたしは奥底の神を退治したくはないのです」
    「なんと。では、どうするおつもりですか」
    「今決めることではありません。奥底の神は我が力を少し奪っていきました。それがあちらに良い結果となっていれば……。けれど、そのせいで帰り着くには少し時間がかかるでしょう」
     蛇は不安になりました。前の戦いで蛇の毒を受けた奥底の神は、それを自らの力に変えて反撃してきたのでした。大地の神の力を受けたなら、奥底の神の力はどれほど増しているのでしょうか。
    「奥底の神はまだ大地さまを怨んでいましょう。帰る邪魔をしてくるのではないでしょうか」
    「そうだとしても、大風の神のもとへ戻らなくてはなりません。ひとつの塊から生まれたわたしたちがこんなにも離れ離れになるのは初めてです」
     大地の神はため息をつきました。それがふわりと地面に落ち、土を黒く湿らせました。そこから草が芽を出し、六片の花びらの小さな白い花を咲かせました。蛇はその香りをかぎました。
    「なんと愛らしく、良い香りの花でしょう」
     大地の神も優しくその花を見つめました。大地の神がしばらく立ち止まっていたせいで周りは草花がこんもりと茂っていきました。ふと来たほうへ振り返ると、大地の神の足跡に枯れた草花がかさかさと音を立てていました。足元に目を戻すと、みずみずしい草花が揺れていました。
     大地の神は一歩、二歩と踏み出しました。そしてまた振り向くと、緑の小山が干からびていくのが見えました。
    「ああ、我が力が欠けてしまったせいね」
     大地の神が呪われるまで、植物たちは決して枯れることはありませんでした。そのかわり、勝手にはびこることもなかったのです。大地の神はひざまずいて枯れた草を抱きしめました。蛇は心配そうに大地の神を見つめました。
    「早く戻って、奥底の神から力を取り返さなくては、大地さま」
     大地の神はそれに応えず、草花にささやきました。
    「わたしは、初めから終いまで面倒を見ることが出来なくなりました。おまえたちが生き続ける事を望むなら、そう願いなさい。自らを思うように変えていくのです」
     大地の神がそう言うと共に、口からきらきらしたものが吹き出して枯れ草にかかりました。すると、枯れた花が実をつけ、熟し、種がこぼれました。そして新たに芽を吹きはじめました。
     蛇は丸い目をさらに丸くしてその様子を見つめていました。大地の神は言いました。
    「わたしは不完全になりましたが、おかげで命に意志を与えることに気付きました。植物たちはこれからもっと美しく力強くなっていくことでしょう」
    「己が知っていた世界は変わっていくのですね」
     蛇は不安げに言いました。大地の神は再び芽吹いた草花を見つめて言いました。
    「変わっていきます。それが良いのか悪いのかは、終わるまでわかりません。ただ、いとおしいものたちが望むほうへ変わっていくでしょう」
    「変わっていく世界に、己はついていけるでしょうか」
    「おまえはわたしを救おうと毒を作り出したではありませんか」
     大地の神の言うとおり、蛇は奥底の神と戦うまでは毒をもっていませんでした。
    「おまえは自らを変える力を、自らの意志で得たのですよ」
    「大地さまのためにしたことでしたが、良い結果にはなりませんでした。生きものたちはこの己と同じく、聡明ではありません」
     蛇はうなだれました。大地の神は蛇に手を差し伸べ、その頭をなでました。
    「恐れることはありません。おまえはこれから、移り変わっていく世界を見てゆくことになるでしょう」
    「ならば、どんなに世界が変わっても、大地さまと共に己が在らんことを」
     蛇は目を閉じて大地の神の柔らかい手の感触を心に刻み付けました。
     それから大地の神と蛇は永い間進み続けました。神が歩いた場所からは草花が生え、実を落とし、少しずつ広がっていきました。空には太陽と、今よりもずっと大きく強く輝く、まだ欠けることを知らない真円の月が交代でめぐり、大地の神と蛇を見守っていました。
     あるとき、大地の神の歩みが遅くなってきました。蛇が心配そうに見つめあげました。
    「どうなさいました」
     大地の神は足を引きずるように進みながら応えました。
    「胸が苦しいのです。奥底の神から伝わった怒りが、今になってわたしを締め付けるのです」
    「ああ、いったいどうしたらよいのでしょう」
     大地の神はがっくりとひざをついてうずくまり、蛇の言葉も耳に入らない様子でした。それまでのように周りに草花が芽吹くこともなく、蛇はおろおろと乾いた地面を這い回りました。
     そのうちに、大地の神は苦しみながら黒い石を吐き出しました。内側から微かに光を放つ不思議な石でした。
    「これはなんでしょう」
     大地の神は大きく息をつきました。
    「わたしの中にたまっていた怒りです」
     やがて黒い石はぶるぶると震えだし、鋭い音を立てて破裂しました。中から薄黒い煙が立ち上り、蛇は憤怒の形相をした老人の形を見たような気がしましたが、それはすぐに消え去ってしまいました。石の破片は土の中へ吸い込まれるように沈んでいきました。と、地面が震えるように揺れだしました。蛇はめまいがして、ぺったりと地面に這いつくばりました。
    「な、何事でしょう」
     石が沈んだあたりから白い砂が湧くように広がってきました。それはどこまでもどこまでも広がって盛り上がり、所々に丘や谷を作りました。後にここは果て無し砂漠と呼ばれるのです。
    「怒りが、地の潤いを奪ってしまいました」
     大地の神の言葉に、蛇はがく然と辺りを見回しました。見渡す限り青い空と白い砂だけの風景でした。それはとても美しく、怒りが源とは到底思えませんでした。しかし、大地の神が足を進めると、それまでとはまったく違う奇妙な姿の植物が生え、瞬く間に干からびていくのでした。


    【サンプルはここまでです。ピクシブにはもう少し長く載せています】

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