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【BL】夏色フォトグラフィ【R18】

  • 第二展示場 Fホール | い-39 (小説|BL)
  • なついろふぉとぐらふぃ
  • まつのこ
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 100ページ
  • 500円
  • 2019/8/25(日)発行
  • R-18BL


    「水も滴るいい男、ってか」
    大学の写真部に所属する麻生奏は、
    いつものように部活のために大学へ向かうと、
    仲の良い同級生竹本龍司にいつものように写真を撮られる。
    そんな日常を繰り返していたある日、
    二人で近くへ撮影へと出掛けたところで、
    突然の雨に降られ──
    写真バカの大学生たちのほのぼのストーリー


    ~~~~~~~本文サンプル~~~~~~~
     雲ひとつない空から照りつける日差しは、遮るもののない住宅地の長い坂道をじわじわと焼き付ける。アスファルトから反射する熱は、サウナのような空気を生み出している。そこに追い打ちをかけるように、蝉の声があちらこちらからジリジリと聞こえてくる。
     真夏の地獄のようなこの坂道を、かばんと一眼レフカメラを肩に掛けた白いTシャツとベージュのズボンの青年──麻生奏が、全身汗だくになりながら歩いている。猫背気味に上体を少し前に倒しながら息を切らしている。

     ただでさえ息が切れる坂道であるにも拘らず、この暑さだ。相当辛いものだ。
     それでも彼は、ただ目的なく歩いている訳ではない。
     彼の歩く道の先には、大学のキャンパスがある。夏休みのため授業はないが、様々な理由により用事がある人はいる。彼もその一人だ。
     奏が所属する写真部は学内でかなり活動的な部活で、学内外で定期的に展示活動を行っている。それ以外の活動もあり、今日はその話し合いのために学校へ向かっている。
     ようやく坂道を登り終えると、直線の道の先には校門が見える。奏は休むことなく歩き続け、学校へ向かう。
     その間にも日差しは奏に直撃し、だらだらと垂れる汗が全身を濡らしていく。しかし、そんなことを気にしている様子を見せず、拭う素振りは一切ない。
     平らな道になったおかげか、奏の足取りが少し軽くなったようだ。速度を上げて学校へと近付いていく。
     大きな門のある家の前を通り過ぎ、道路を横断する。校門をくぐると、ようやく学校の敷地内へ入った。
     はぁ、と一息付くと、再び歩き出して目的の建物へと向かう。
     伝統のあるこの大学は、人口の多い都市に建っている割には広い敷地面積を誇っている。建物はいくつかあり、場所によって役割が異なっている。研究室の集まっている建物、教室の集まっている建物。
     奏たち含め、部活やサークルの活動場所として部室棟がある。しかし、団体によっては人数が多すぎて入り切らない。そのため、空き教室を活動場所として貸し出して使うことも可能である。写真部はかなり人数が多いため、その対象になっている。
     慣れた足取りで奏は『4』と書かれた建物へ入っていった。目の前にある階段を上り、二階に着くとすぐにトイレへ入る。空調もないこの空間は熱の籠もった場所であまり長居したくない。それでも、直射日光が当たらないだけ多少は涼しかった。
     そそくさと水道の前に立つと、蛇口を捻り勢いよく水を出す。かばんとカメラを後ろに回し、冷たい水が出始めた頃合いになると、そこへ奏が頭を入れる。水は汗と混じり、髪の毛を濡らして顔まで垂れていく。顔を左右に傾けて全体を濡らしていく頃には、シャワーを浴びたようにずぶ濡れになっていた。
     シャツまで水滴が飛んで濡れた頃になってようやく満足したのか、水を止めた。ポタポタと水滴の垂れる頭をその場で止め、かばんの中へ右手を入れて何かを探している。
     そこから取り出したのは、フェイスタオルだった。頭からすっぽりと被ると、ガシガシと手を動かして水気を拭き取る。水分は髪からタオルへと移動していき、今度はタオルが湿っぽくなるが、元が冷たい水だっただけあって少しひんやりとしている。
    「ふぅ……」
     あらかた拭き取ると、タオルを首に掛けてトイレを後にした。
     廊下に戻り、活動場所の教室を目指して歩き出す。

     カシャッ──

     目の前にはカメラを構えた青年がニヤリと笑って立っている。彼はファインダーから目を離すと、まっすぐ奏を見つめた。
    「水も滴るいい男、ってか」
    「……なんだよ、りゅう。ストーカーか?」
    「まあな。……ってのは半分冗談で、廊下出たらお前の姿見つけたから待ってた」
     りゅうと呼ばれた彼──竹本龍司は笑顔を保ったまま、奏の隣に並んで歩き出した。
    「うわっ、ストーカーと変わらねえだろ」
    「そんなこと言うなよ。それよりも奏、すげー濡れてるな」
    「今日やけに暑くねーか? さっきトイレで水被ってた」
    「なーる。でも、そんなみっともないと吉川にグチグチ言われるぞ」
    「他人のことは知らねー」
     そんな軽口を叩きながら歩いていると、目的の部屋に着いたようで二人の足はドアの前で止まった。奏がドアをガラガラとスライドさせて先に入っていく。
    「ちわーっす」
     奏の挨拶に先に来ていた部員がちらほらと反応を示して返事をする。奏の姿を見て一瞬驚きを見せている者もいるが、ほとんどの者はいつも通りかという反応をして戻っていった。
     そんな中、奏がエアコンのよく当たる席に座ったところで髪を緩く束ねた女子がずかずかとやって来た。
    「ちょっと麻生、あんたなんでそんなに濡れてるの!?」
    「ん? 暑かったから水被った」
    「水被ったって……。はぁ、呆れる」
    「別に吉川には関係ないだろ」
    「あんたが視界に入って見苦しい」
    「俺は見苦しくない」
     吉川がずっと奏が濡れていることに関して意見を言うが、奏には全く伝わっていないようだ。それでも必死に続けていることに、一年の後輩たちは驚いているが、三年の先輩たちと二年の同級生は呆れているようだ。そんな中、龍司だけは奏の横で笑いを堪えていた。
     いつものように賑やかな状態が続いていると、教室の前のドアから誰かが入ってきた。Tシャツに半ズボン姿の眼鏡を掛けた男の手には、水滴の付いた袋がある。
     その姿を見た部員は自ら挨拶していた。それに挨拶を返した彼は教卓の前に立ち、持っていた袋をそこへ置く。
    「もー、こんな暑いのにさとちゃんとかなちゃんはまた喧嘩してんの?」
    「角田さん! 麻生のやつ暑いからって水被って見苦しいんですよ!? 信じられない」
    「まあまあ。さとちゃんがそんなに怒ってるとみんな暑いからちょっと落ち着こ? それに、今日は俺の奢りでアイス買ってきたよ。今日はアイス食べながら話し合いしよ」
     アイスという言葉を耳にした部員は、喜びながら前へ駆け寄った。三種類ある棒に付いたアイスキャンディが袋の中にあり、各々が食べたい味を手にして席へ戻っていく。
     一方の吉川は部長の言葉によって落ち着いたようで、皆に紛れながらアイスを選びに行った。
     遅れて奏と龍司、その他数名も残ったものを物色しに前へ移動した。奏は赤い袋を、龍司は青い袋をそれぞれ手にした。
    「角田さんありがとうございまーす」
    「どういたしまして。それよりもかなちゃん、次は着替え持ってくるとかもう少しまともにしてね」
    「はーい」
     席に戻ると同時に袋を開け、棒の方からアイスを取り出す。一口齧ると冷たさが口の中に広がり、身体の中を冷やしてくれる。二人は思わず口元が緩んだ。
    「みんな席についたー? それじゃあ始めるよー」
     皆がアイスを食べながら部長へと注目する。彼は慣れた様子で今日の内容を黒板に書き始める。そうして写真部の活動は始まっていった。

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