とある兄弟の立ち位置が崩れてゆく瞬間……。
高校生の兄・秋一が、かつて使っていた汁物の紅い器を、中学生の弟・春希がお下がりとして使うようになってから、嫉妬のようなものを抱いている。
家族には「お兄ちゃん」、弟には「秋一兄さん」と呼ばれ、日々、どうしようもなく兄という立場を意識させられることが、なんとも苦しかった。
けれど、弟のことは憎めない。秋一が自ら弟を「春希」と呼ぶたびに、弟は名前で呼ばれる存在であり、羨ましく思う。
秋一にも、名前を呼んでくれる兄がいたら、と思わずにいられない。
自分の名前を弟として優しく呼ばれたい、欲望が日に日に膨らむ。
一方で、弟の春希は兄が紅い器に注ぐ視線を感じており、その意味も何となく把握していた。
秋一に「春希」と呼ばれることが嬉しくて、表には出さないものの、兄が大好きだ。
大好きな兄が望むのなら、春希は、弟の自分が兄のように振る舞っても構わないと思う。
兄弟なんて、先に生まれたか、後に生まれたかで決められた序列にすぎない。
二人きりの兄弟の秩序を守るも破るも、二人次第。
春希は兄を優しく名前で呼び捨ててみたい衝動に駆られる。
それは兄のように優しく?それとも……。
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