年上のおにいさんに「よしよし、いい子だ」と言われる年下BLを読みたい作者ふたりで書きました。弱ったショタ・泣いているショタや年下彼氏を甘やかすもよし、ひたすら慰めるもよし!もちろんハピエン・痛いのなし!
共通項…主従関係/敬語攻め/魔術師
「精霊使いの王子様は銀の騎士に恋をする」/ 東院さち
【過保護な護衛騎士×幽閉された王子】
過去、兄を助けるために魔術を暴走させた王子・セラフィは離宮で孤独な日々を過ごしていた。ある日護衛騎士見習いのアレクシスがセラフィの前に現れる。今までの苦痛をなぎ払い、彼はセラフィに真心と安らぎを与えてくれた。四年後、アレクシスの成人を機にセラフィの幸せは終わりを告げる。アレクシスが兄の護衛になることが決まったのだ。さらに、魔術師となるために新たな生活を余儀なくされたセラフィは――。
セラフィが身の内で抑えていた風の力を集めようとした瞬間、確かに集まっていた魔力が弾けるように消えた。
「はははっ! 面白い、この離宮は魔術が使えないようになっているのですよ。あなたがどれほど強大な風の使い手であろうと――っ、ブッ、ギャッ!」
両手を広げて陶酔したような笑いを浮かべながら、ネグレスは床に倒れていった。その背中をアレクシスの脚が踏み下ろしている。
「よくも殿下に向かって鞭を振るったな」
整った顔を怖いと思ったセラフィは多分間違っていない。その後ろからやってきたカリナがセラフィを後ろから抱きしめた。
「殿下……」
「もういい……、許されなくてもいい。ここから出る! もう、やだ!」
「あなたの居場所など、ここには――ギャッ!」
アレクシスはネグレスの首を掴み腕で締め付けた。静かになったネグレスを荷物のようにどさっと転がし、セラフィに近づいてきた。
「来ないで!」
さっき魔力を集めようとしたせいか身体の中が熱くて、グルグルと力が渦巻いていた。この離宮なら大丈夫だとネグレスは言っていたけれど、ネグレスを信用してもいいのかセラフィにはわからなかった。
「アレク! 身体が熱い――。暴走してるわ」
カリナの焦ったような声でアレクシスは近づくのを止めた。
「二人ともどっかに行って!」
それでいい。距離をとって離宮から逃げて欲しい。セラフィを守ろうとしてくれたアレクシスに怪我をさせたくない。
「震えてる……。私のことが怖いですか?」
アレクシスは暴走が怖くて止まったわけではなく、セラフィを怖がらせないために止まったのだと気づいた。セラフィが怖れているのはアレクシスではなく、セラフィ自身だ。
「怖い――っ、アレクシス……自分が怖いんだ!」
叫んだ瞬間、セラフィはアレクシスの胸の中にいた。
「怖くありませんよ。殿下は今までずっと我慢していたのでしょう? 今も必死に抑えようとしている。泣かないで――、私はあなたの涙に弱いのです。よしよし、頑張りましたね。偉かったですよ」
アレクシスはセラフィを片手で抱き上げて、首から回した手で頭を撫でた。そして寄せた頭の先にキスをした。
「ア……アレクシス」
「嫌でしたか? ご褒美のキスは頭でいいんですよね、カリナ」
「……そうだけど、ビックリして殿下が固まってるわよ。暴走が収まったようでよかったけれど」
アレクシス達の家ではいい子にご褒美のキスがあるらしい。何だか胸のあたりがあったかくて気持ちが良よくて、セラフィは瞼が重くなってきた。
【お試し読みここまで】
「魔術師は幼きあるじに愛を誓う」/ きよにゃ
【優しい従者×明るい貴族の坊ちゃま】
子爵家の一人息子・フリッツは馬車に酔ったところをクラウスという少年に介抱される。フリッツの侍従として子爵家で働く事になったクラウスは、川で溺れたフリッツを抱きかかえて意識を失うほど尽くしてくれる。クラウスに恋心を抱き共に学校に通うフリッツだが、クラウスはそのたぐいまれな魔術の成績で研究機関へと進む。学校を卒業する頃、クラウスが有名になって街に戻ってくる。
「私がお仕えするのはあなただけです、フリッツ様」
見上げる格好になっているせいか、クラウスの瞳が濡れたように光っているのに気付いた。
――こんな切ない表情されたら、勘違いしそうだ。好きだからそんなふうに思うのかな。
「フリッツ様」
クラウスが前屈みになって顔を近づけてきた。
――近い。このままじゃキスされちゃうんじゃ……?
クラウスの端正な顔が迫ってきたので反射で瞼を閉じると、額をコツンと合わされた。
「熱が上がってきてます。熱冷ましを飲んだほうがいいでしょう。貰ってきます」
部屋から出て行く後ろ姿を見て、大きなため息をつく。
――ずっと前にトンボを見せられた時みたいだ。あのときもキスされると思ったんだっけ。
はじめは単なる勘違いだったけれど、抱きしめられたり、思いやり深いところを知ってクラウスを好きになった。
だが、さきほどの言葉のようにフリッツを主人としてしか見ていないのだろう。いつかこの気持ちに気付いてくれれば、と思うけれどクラウスが学生でいるのもあとわずかだろう。
――どうすれば分かってもらえるのかな。やっぱり僕が告白するしかないのかな。
「水と薬を頂いてきました。飲めますか?」
当の本人の声がして、飛び上がりそうになった。が、思いのほか顔が熱くなっていると気付いた。熱が上がっている。
頭を起こそうとしたが、思い通りにならない。
「ダメみたいだ」というと、「分かりました、では」とコップの水を飲んでしまった。
「それ僕の……、んっ!」
クラウスの整った顔が迫ってきたので思わず目を閉じる。と、唇に柔らかいものが押しつけられた。
「んん……っ」
唇が合わさったところから水が流しこまれる。なにがなんだか分からないうちに嚥下すると、口の中に苦い味が広がった。
「く、薬……?」
「ええ。苦そうなので、水なしではつらいかと思いまして。……飲んでくださってよかったです」
朗らかな笑顔を向けられ、あくまで医療行為で口移しをしたのだと分かった。
――キスしてくれたなんて思ったのは僕だけなんだ。やっぱりクラウスは、単なる主人としか僕を見ていない。