僕には夢がある。
一度でいいからオメガになり、キース様に激しく抱いてもらう夢だ。
動物のように我を忘れたキース様に、愛してもらいたい。いつも寝台で余裕のある彼がそれをなくすさまを見てみたい、というのもあるが、一番はこれ以上ないほど求めてほしいと切望しているからだ。
【中略】
「なんだろう、今すぐお前が欲しくてしょうがない……」
僕の寝間着を脱がそうとキース様がたくし上げたとき、ハッとしたように呟いた。
「この感じは覚えがある。オメガの匂いだ。カイ、お前オメガだったのか……!」
ドン、と突き飛ばされてたたらを踏む。キース様の苦しそうな顔が見えて心が痛んだ。
(そんな顔をしないで下さい。これは、僕とあなたが幸せになるためなのに)
キース様が一歩下がり、顔を歪める。ひどくつらそうだ、抱きしめ慰めてあげたくなってしまう。
「早く俺から離れろ。このままだと、お前を壊すほどひどく抱いてしまう」
「そう……してください」
ハ、と浅い息をつき、寝間着の裾をぎゅっと掴む。
「え?」
「抱いて下さい、キース様。オメガを抱くとき、獣のようになると仰っていたのが忘れられなくて。僕も、一度でいいからそんなふうに抱かれたくて、オメガみたいになる薬を飲んだんです」
僕は今日のためにオメガ化の薬を求めたことを告白した。僕がどれほどアルファとしての彼を欲しがっているのか知ってもらいたかったからだ。
てっきり喜んでもらえると思っていたのに、キース様の顔はみるみるうちに真っ赤になってしまった。
「馬鹿か、お前は!」
飛んで来た怒声に首を竦める。まったくの予想外だった。ゆらり、とキース様の体から不機嫌な気配が立ち上り、そこでやっと僕は彼が怒っているのだと理解した。
「キ、キース様……」
「俺にとってオメガなんて、餌みたいなものだ。そんなものになりたいだと? ……いいだろう、望む通りにしてやろう」
皮肉めいた笑みを浮かべるキース様には、恐ろしさと美しさが同居していた。怖いはずなのに、体の奥に熾火がくすぶるように疼いた。
(僕、今からオメガみたいに抱かれるんだ……)
無言で近付いてきたかと思うと、むしり取るように寝間着を剥がされる。ドッと寝台に倒され、なにが起こったのか一瞬分からなかった。すぐに寝台に上がってきたキース様の影になり、思わず後退る。険しい表情は、いつも寝台で優しく蕩かしてくれる彼とは別人のようだった。
「俺がどんなふうにオメガを抱くのか、知りたかったと言ったな。その答えをやろう。ベータのお前にはつらいかもしれんな……」
両足を掴まれ、力任せに開かれる。ズボンの前立てを寛げたキース様のモノは、怒張という言葉が似つかわしいほどに張り詰めていた。
【中略】
キース様の昏い笑い声が降ってくる。
「俺にめちゃくちゃにされたかったんだろう? カイ。犯してほしかったんだろう?」
「でも、こんなふうにじゃないんです。僕はただ」
「うるさいオメガだ。オメガは大人しく、されるままになっていればいいものを」
忌々しげに吐き捨てられ、愕然となった。
キース様にとって、長年お客として迎えていたオメガたちは憎悪の対象だったのだ。望んでいない性交に愛などない。彼は義務として与えられた仕事をこなしていたが、決してオメガたちを愛していたわけではなかったのだ。
スッ、と頭の後ろが寒くなる。僕はなんてことをしてしまったんだろう。
【サンプルここまで】