「そんな顔をするな、またキスしたくなるだろう」
【面倒見のいい執事×子供好きな少年】
【あらすじ】
男爵家に雇われたフィルは、弟君セシルに懐かれ子守り兼侍従となる。フィルに否定的だった執事のレスターも次第にフィルを認めてくれる。落ち込んだときにチョコを差し入れてくれたり、元気づけてくれたりするが、屋敷の息子スタインに目をつけられてしまい……。
【英国調ファンタジー/お仕事BL/歳上攻め/読み切り】
【本文サンプル】
「スタイン様、落とし物を奥様から預かっています。どうぞ」
セシル様とは言わなかった。また言いがかりを付けられたらいけないから。
「ああ、ママが拾ったのか。つまらないな、またレスターが届けてくれるかと思っていたのに」
まるでゲームが上手くいかなかった子供の反応だった。
「レスターが届けてくれたときは、楽しかったな。付け方を教えてあげると言って、胸ポケットの裏に手を入れて付けてくれたんだぜ。鼓動が聞こえないかとハラハラしたよ」
ふんぞり返るスタインに、周りの双子たちが騒ぎ出す。
「レスターって、あの背の高い金髪の執事だよね」 「いいなぁ。彼、きっとタチだよね。あんないい男に抱かれてみたい!」
変声期を過ぎた掠れ声で叫ぶものだから、こんな言葉が廊下に聞こえないかハラハラする。 僕はショックを受けていた。レスターは面倒見がいいが、さわられると爬虫類のようだと言っていたスタインに、そこまで献身的に接するとは思えなかったからだ。 もしかして、スタインもあの高級なチョコレートを一緒に食べたのだろうか。僕だけじゃなくて、同じ年頃なら皆腹を減らしているように見えたのだろうか。 ――僕はレスターの特別でもなんでもなかった。その事実に打ちのめされる。
「レスター目当てに落としたのに、とんだ期待外れだったな。帰っていいぜ、子守りのフィル」 「もしかして、わざと落とされたんですか?」 「それがお前に関係あるのか? せっかく計画したのにお前なんかが来て不愉快だ。とっとと帰れよ」
奥様は、スタインが学校で怒られるといけないから、校章のことを知ってすぐに僕を寄越したのだ。 セシル様だって、兄の学校のものだと知れば「渡してあげて」と言っただろう。まだ小さいけれど、人を思いやることの出来るかただ。 ……そんな弟や母の気持ちを推し量ろうともせず、自分の色恋沙汰しか考えられないなんて。
「奥様は、あなたが教師に怒られないか心配されていました。ご自分が主催のパーティのさなかに、使用人を遣いに出したほどです。そのことを知ってください」
怒りが沸々と湧いてくる。この甘ったれた男に周りの気持ちを少しでも伝えたかった。それだけ言って踵を返そうとすると、肩を掴まれた。
「一丁前に説教か。お偉いんだな、子守りってのは。お前ら、こいつの手足を押さえろ」
いつのまにかそばに来ていた少年二人が、僕の腕にしがみつく。
「なっ、なにするんですか。離してください」 「スタインを怒らせちゃったぁ。僕知らないー」 「僕も。手伝うけど、やるのはスタインだからね」
それぞれ言いわけしながら僕を拘束する。坊ちゃまやご学友を殴るわけにはいかないから、されるがままになってしまう。 両脇からタキシードの前ボタンをはだけられ、胸を晒す格好になった。僕の前に立ったスタインが薄ら笑いを浮かべた。
「お前に思い知らせてやらないとな。どちらが主人かって事を!」
そう声がしたかと思うと、腹に蹴りが入った。
「うっ!」 「見えるところはバレるからな。お前らズボンを脱がせろ。尻を引っぱたいてやる。それとも引っ掻かれるほうが好みか?」
さっき殴られ折り曲げた背中を蹴られ、その隙に無理矢理ズボンを引き下ろされた。下着も一緒に下げられたから、腰から膝辺りまでが丸見えだ。
「無様な格好だ、お似合いだな。セシルが見たらなんて言うか見ものだな」 「やめてください。セシル様は純粋な方です。使用人のこんな姿を見たらきっとショックを受け」
そこまで言った時、パン、と平手打ちをされた。見える場所には傷をつけないと言っていたのに。
「使用人ふぜいが出しゃばるな! この俺に説教なんて百年早いんだよ。ダメな子守りにはお仕置きだ!」
尻を大きくななめに爪で引っ掻かれた。肉をえぐられた場所がヒリヒリして、床に膝を付いてしまった。
「休むな。……待てよ。その格好、後ろから挿れてくださいと言わんばかりじゃないか。なぁ、お前ら」
下卑た笑いでスタインが同意を求める。
「スタインったら、すぐそういうこと言う。でもそうだね、乱れたタキシードはなかなかそそられるね」 「ねえキミ、挿れてほしいから屈んだのぉ?」
違う、と首を横に振るが「頷いてるよなぁ?」とスタインが背後に立った。 尻の間に昂ぶったモノを押し当てられ、ゾッとした。まさか――。
「犯してやるよ、フィル。一度挿れられたら、皆俺に夢中になる。もっと欲しいと泣いて縋り付くオンナにしてやるよ」
「やめて下さい、これはすでに暴行です!」 「おっと、このことをだれにも言うなよ。言ったらお前を解雇させてやるからな」
性器が尻たぶを割ってゆく。なんて卑怯な男なんだろう、もう抵抗も出来なくなってひと言呟くのが精一杯だった。
「あなたを軽蔑します」 「フィルの意見に同感だ」
扉のあたりから明瞭な声がした。
「なっ、レ、レスターッ!?」
スタインが僕から飛び退き、両脇を抱えていた同級生らしき少年も離れた。 夢じゃないだろうか。でも、そういえば校章を渡したあと鍵なんてかけてなかった。
「パーティが始まるので、お呼びに参ったのですがとんだところにお邪魔したようですね」
カツカツと靴音を立ててレスターが近寄ってくる。眉間には深く皺が刻まれ、怒りのためか色素の薄い額に静脈が浮かんでいた。
「フィル、怪我は。……たくさんあるね、頬も赤く腫れている」
自らの上着を脱いで僕に着せかけてくれたので、その合間にズボンを引き上げた。
「嘆かわしいことです。スタイン様が無抵抗の侍従を殴りつけ、ひどい傷を負わせている事実を知ったら、ご両親はなんと言われることか」 「ち、違う! こいつが悪いんだ。偉そうに俺に説教なんてするから……!」 「いいえ。悪いのはフィルではありません。なにか気に障ることを言われて頭に血が上り、怒りのまま蛮行に及んだあなたです」 「……っ!」 「あなたがそういう性格なのは、この屋敷の者なら皆知っています。このことはご両親に報告致します。フィル、行こう」
スタイン達の視線から庇うように、肩を抱かれて廊下に出た瞬間、体が震えはじめて驚いた。
「大丈夫……じゃないな。震えが出てきて、顔も腫れてしまっている。冷やさないといけないな」
グッと肩を寄せられ、レスターから森林のようなフレグランスが薫って、クラクラする。
「いつもなら、パーティが始まって早々に食事を取りに来るのに、来ないから嫌な予感がしたんだ。あまり素行のよくないご学友も連れてきていたし。……遅くなってすまない」 「レスターさんは悪くないです、僕がきちんと抵抗できなかったから」 「三対一は分が悪すぎるだろう。しかも君は真面目で実直な従者だ、立場上抵抗できるはずもない」 「買いかぶりすぎですよ……」
そうは言ったけれど嬉しかった。レスターが僕をそんなに良いように思ってくれていたなんて驚きだった。
【サンプルここまで】