冷え症の高校一年生・悠真は、心をいやしてくれる絵の作者・小鳥遊に出会う。
小鳥遊のモデルになり、冷えた手を温められるうちに気持ちが育っていくが、ある日性的な夢を見てしまい、自己嫌悪に陥ってしまう──。
【美形先輩×冷え症ウブ後輩】(R18)
★おまけペーパー封入あり
★残部僅少、再版予定はありません。
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【サンプル】
間の悪いことに、翌日は小鳥遊のモデルになる木曜日だった。放課後、美術準備室で言葉少なにポーズを取っていると、斜め前の椅子に座った小鳥遊が鉛筆を置いた。クロッキーが終わったのだろう。
「ありがとう、悠真。終わったよ」
悠真は立てていた膝を机から落とし、床に降りた。同じポーズを取るのに慣れて来たが、自由になると体のあちこちが軋む。少し腕を伸ばして屈伸運動をしていると、小鳥遊が「冷えたんじゃないのか?」と言って手を包んでさすってくれる。しばらくそうしていたが、ふいに手を頬に持っていかれた。すり……と顎から頬骨のあたりまで悠真の掌をふれさせる。
「……せ、先輩? も、もう大分暖まりましたけど」
ドキリと心臓が音を立てる。ほんの少しだけ伸びた髭がちりっとあたり、小鳥遊は美しいけれどちゃんと男なのだと思った。
「まだ冷たいよ。僕の顔の方がぬくいくらいだ」
「あの、でも……っ」
かっと顔が熱くなる。今まで頬で暖められたことなどなかったので戸惑ってしまう。
小鳥遊の目に、悠真は今までと同じに見えているのだろう。昨日の晩、小鳥遊の夢を見て夢精してしまったと知ったら、どんな顔をするだろう。おそらく「悠真がこんなにいやらしい後輩だと思っていなかった」と言って軽蔑するに違いない。
小鳥遊の薄い色の瞳に、悠真は映らなくなる。きっとモデルもしなくていいと言われて、話すことも出来なくなるだろう。
(それだけは嫌だ。今まで通りに接してほしい)
だから、小鳥遊の前では大人しい後輩のままでいた方が、きっといいはずだ。軽蔑されるよりも、今まで通りの方がいい。小鳥遊への気持ちを気付かれないようにしないといけない――。そんな考えがぐるぐると頭の中で渦まく。
小鳥遊の声が聞こえてきて、急に現実に引き戻された。
「今度の夏休みに合宿があるけど、僕も記念で参加しようかと思っている。暑いけど熱海の温泉にでも行こうって提案してみようか。温泉に入ると血行がよくなるから」
「う……」
じわっと涙が出てきた。
(俺はそんな優しい言葉をかけてもらえるような人間じゃないんです。先輩が親切に言ってくれているのに変な夢を見て、顔さえまともに見られない)
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