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金曜日は雨がいい

  • D-33 (小説|短編・掌編・ショートショート)→配置図(eventmesh)
  • きんようびはあめがいい
  • 梓野みかん
  • 書籍|A5
  • 72ページ
  • 400円
  • 2020/05/24(日)発行

  • 来月から中学生。
    でも自他ともに認める晴れ女の明智奈(あけちな)は、どうしても卒業式に雨を降らせたくて…。

    ほのかな恋風味の、青い春の一週間をぜひどうぞ♪。
    以下、章の冒頭部分です。
    ―――

    (月)
     晴れるに、こしたことはない。
     明智奈はそう思う。
     遠足、運動会、修学旅行、クラブ活動に町の清掃ボランティア。屋内行事の文化祭とて、天候しだいで出足は鈍る。鈍ればバザーの売り上げが落ちる。落ちれば生徒会運営に支障が出る。少なくとも、思うがままには立ち行かない。
     明智奈は今、今年度の収支計算書を眺めて、ニンマリしていた。
     マラソン大会、授業参観に避難訓練。雨が降って都合がいいことなど何ももない。そもそも万事、晴天を大前提に進むのだ。雨天など最悪である。日時の変更やら代替案の捻出やら保護者への対応やら、何から何までイレギュラーにカネと人員を奪ってしまい、結果、生徒会予算に累を及ぼしかねない災厄となる。
     計算書の数字は、生徒会長であった明智奈の、いわば通知表である。
     ――ぬかりなし。


    (火)
     ポエム先生は再会した。
     かつての想い人に。
     赴任先の、この学校で。
    「あ」
     職人然とした、無口な用務教員のハイク先生こそがその人だった。
     体育館の出入り口から続く廊下の窓から、灰色の作業着を着て学習用の畑で雑草を刈る先生の姿を、明智奈は見つけた。昨日にひき続きよく晴れているせいか、外仕事をしていると暑いのだろう。作業着を腕まくりして、短く整えた白髪にタオルを巻いている。黙々と作業するその手際は、褐色の肌に刻まれたシワとともに、何年もの時間をかけて培ってきたものなのだろう。
     そしてそこから遡る、はるか過去に、小学生だったハイク先生とポエム先生の時間が交わっているとは――誰も思うまい。



    (水)
    「二人とも、結婚はしてないんでしょうか」
     コバルトはテルテル坊主を作りながら、向かいに座った明智奈に問いかけた。明智奈はといえば、頼れる後輩の作ったテルテル坊主の頭に、黒い油性ペンで泣き顔を書き入れている。絵心に乏しいからなのか、それとも道具や材料のせいなのか、やたらとにじんでしまった顔は、おどろおどろしいこと、この上ない。
    「ハイク先生はわからない。担任の先生も知らないって言ってたし。ポエム先生は……若いころ一度したけど、旦那さんが早くに亡くなったって」
     そうなんですか、とコバルトが言ったあと、二人はしばらく作業に没頭した。
     今日も良く晴れた、昼下がりである。
     町はずれにあるコバルトの家の縁側に、明智奈はいた。縁側に木の雨戸がついた、昔ながらの古い家である。


    (木)
    「話はつけた」
     明日にひかえた卒業式の全体演習のあと、生徒会役員が会場の準備を手伝っているときに、コバルトは明智奈にひと言、そう告げられた。そして下校したのち、大荷物で彼の家に訪れた明智奈は、再び言った。
    「話はつけた」
     ゴミ袋に詰めこまれた大荷物の正体は、ガラクタのような楽器の類と、古い衣裳である。雨乞いの踊りのために、演劇部の友人に頼み込んで貸してもらったのだと明智奈は荷物を運びながら説明した。昨日と同じ縁側への道すがら、今日は居間からラジオの音が流れている。
    「……ひき続き高気圧に覆われ、明日も広い範囲で晴れるでしょう……」
     アナウンサーの言う通り、今日も雨の気配は全くない、いい天気である。
     コバルトはラジオを消した。そして昨日出せなかったせんべいを持って戻ってくると、縁側の端から端まで逆さにつるされている数十体のテルテル坊主を、明智奈が眺めているところだった。


    (金)
     願いは届かなかった。
     とは、明智奈は思っていなかった。
    「やっぱり、おまえは晴れ女だなあ」
     明智奈の父がネクタイを締め、アパートの窓から外を見上げた。朝食どきのテレビは軒並み、笑顔で卒業式日和を伝えている。新聞の気象欄には大きな太陽のマークが描かれて、天気図上では、高気圧を示す線がだらしなく広い範囲を覆っている。
     新聞を閉じ、テレビを消して、明智奈はおろしたてのパンプスを靴箱から出した。父が残業代で買ったという、卒業祝いである。
     右足を入れて、「ガンジ・ガンジ・ガンガンジー」。
     左足を入れて、「ウンババ・ウンバ・ウンバババ」。
     髪をいつものように結いなおして、「レフメアンサクタ、レフメアンサクタ、レフメアンサクタ……」


    (土)
    「ファフロツキーズ現象、起こる」
     朝刊の第一面、四分の一ほどに、機能の校庭の様子が写真つきで載っていた。校長先生と担任の先生のインタビューが記事の半分を占めている。卒業式当日に起きた出来事であることから、「とんだ卒業祝い」などという文句で締められていた。記事のすみに、用語解説が添えられている。


    (日)
     朝からの雨は久しぶりだった。
     ザア、とアパートを包む音が、昨日とはまた別の静かさを与えている。明智奈は自室の窓から外を見下ろし、地面のくぼみにできた水たまりに、現れては消える波紋をしばらく見ていた。午前中のうちにスーツをクリーニングに持って行こうか、悩んでいるうちに昼になり、明日でいいか、と思い至ったときには昼を過ぎていた。
     コバルトの返信によれば、待ち合わせは二時。
     居間でテレビを見ながら笑っている父に声をかけた。
    「お父さん、私ちょっと出るから」

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