若い女の鈴を転がすように美しい声。先ほどまでよりは絞ったボリュームで、鼓膜を震わせない『音ではない声』が聖の耳に届いた。かつて聞いたことがないほどの佳音にうっとりしながらも、聖は頷くと「僕はちょっと特殊なんです」と返す。
「あなたが誰なのかはわからないんですが、僕はあなたに危害を加えるつもりはありません。ただ、もう少しだけ小さい声で話してもらえればと思って、お願いに来ました。あなたの声は僕には大きすぎるみたいなんです」
「これでよいのか」
気を遣ってくれたらしく、今度は耳栓が役に立つ音、生の声がごく近くで聞こえた。直接語りかけるのを止めてくれたおかげで頭痛は嘘のように去っている。いきなり喧嘩を売られたらどうしようかとビクビクしていたけれど、話の通じる相手で良かった。
聖が辺りを見回すと、いつの間に現れたのか、聖と同じくらいの歳の女の子が祠の横に座っていた。雪のように白い着物に、木漏れ日を受けて輝く栗色の髪の毛がよく映えている。長い睫毛も栗色で、黒目がちの大きな目を花々しく縁取っていた。
しかし、見た目は完全に人間に化けていても――どれだけ美しくても、恐らく人外の何かのはずだ。
「ああ、楽になりました。ありがとうございます。僕、耳が良すぎるみたいで、ちょっとした音もものすごい衝撃なんです。……僕は大音聖(おおど ひじり)、中学二年……十四歳です。ええと、あなたのお名前は」
「儂か。……そうじゃな、必要なら澪とでも呼んでくれ」
「みお、さん。澪さま、の方がいいですか?」
「どちらでも構わぬ、どうせもともと名もなき身。……して、お主はいったい何者じゃ? 耳が良すぎると言っておったが、もしや『聞き耳』か?」