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春 高瀬晴海の場合
「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます」
壇上の校長先生が朗々とした声で挨拶をする。
「本日の良き日にみなさんを迎えることができて、心から嬉しく思います。我が校は本年度より共学となり、新しい歴史を刻み始めました。新入生のみなさんが充実した学校生活を送れるよう、教師一同サポートしていきます。
我が校は自由と自律をモットーとする学校です。どうか、悔いのない三年間となるよう励んでください」
自分の父親より少しばかり年上だろうか。小柄な身体から発せられるのは張りのある心地よいバリトンだった。
窓にちらりと目をやる。穏やかな太陽の光が差し込んでいて、まさに気持ちの良い入学式日和だった。
つい先日も同様に体育館に並ぶパイプ椅子の中で式典に出席したけれど、その時とは立場が逆転している。送り出される側から、迎えられる側へ。新しい場所、新しい世界へ踏み出す時に湧き上がる独特の緊張感が心を占めた。
「新入生代表挨拶 高瀬 晴海」
名前を呼ばれて僕はすっくと立ち上がった。前へ出ていくその一歩ごとに集まる視線が増えていくのが分かった。通り過ぎていくそばからささめきが生まれ会場中へ広がっていくのが分かった。自分に注がれる刺さるような視線に負けそうになりながら、保護者席に一礼をすると、母が最強の笑顔でピースサインを送ってきた。その笑顔に力をもらって壇上へと進んでいく。
これは自分が自分らしく生きるための第一歩なのだ。
僕は自分に言い聞かせた。しゃんと背筋を伸ばして目の前を見据えた。
その日、僕はスカートをはいた。
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