1.
目覚ましなしに、いつもの時間に目が覚めた。
甘酸っぱい香りがした。体はやわらかな温もりにつつまれている。起きたばかりにもかかわらず、わずかばかりの疲労感がある。しかし、それは一仕事を終えたような充実感をともなっている。
まるで晴れた日に果樹園を散歩しているみたいだ。木陰で一休みして、日が暮れるまではまどろんでいたい。
そんな気分。
「シュウさん、結婚してください」
「十五歳だから無理」
同じベッドの上で、裸で寝ていたマリアの不穏当な発言がけだるいが穏やかな朝を切り裂いた。
いや、本当に不穏当なのは俺の返しの方なのだが。
「もう少しで十六歳です」
「姪っ子だから無理」
ぎりぎり無理だ。
「無理無理って、そればっかり」
「そう言われても、無理なものは無理としか」
十五歳も、姪っ子も。年齢も親等も。
一つ違いで無理だった。もう何度も確認したことだが、最近のマリアは毎晩同じことを聞く。
「シュウさんのバカ」
マリアは二人でシェアしていた布団をひったくって、ダンゴムシみたいに丸くなった。朝の冷えた空気が肌にしみる。いい時間だし服を着ることにしよう。
着替えが終わる頃になっても、マリアは布団に包まったままだった。俺は時間に縛られない仕事をしているので早起きする必要はない。起きなければならないのはマリアの方なのだが、肝心の彼女は天岩戸の大御神だ。
「ほら、起きないと遅刻するぞ」
布団の塊を揺すってみる。
「あと五分」
「駄目だ。起きなさい」
力ずくで布団をひっぺ返してやった。布団をはがされたマリアは亀のように丸くなっている。
「ご飯作ってくるからちゃんと起きるんだぞ」
「ううう」
返事というか、うめき声が聞こえてきた。
このやりとりだけ見ると、まごうことなき親子の会話だ。しかし、マリアは素っ裸である。パンツすら穿いていない。丸くなったマリアは肌のなめらかさと白さのために剥きたてのゆで卵のようだ。
そうだ。朝食はゆで卵にしよう。
そう思ったが、時計を見たら気が変わった。簡単な料理だが時間だけはかかるのがゆで卵だ。ゆで時間が長いだけではなく、殻をむくにも時間をとられる。少なくとも平日の朝に食べるものではない。
「今日も可愛いよ、マリア」
マリアはベッドの上でばっと立ち上がった。こちらのゆで卵はあっさりとゆであがる。
だけど、作るのはスクランブルエッグだ。卵をぐちゃぐちゃにかき混ぜた後に、焼きながらさらにぐちゃぐちゃにかき混ぜて形もわからない料理を作ろう。