1.
悪い夢を見た。痛みと悲鳴と寒さばかりの夢。
ぼんやりとした意識は温かくて柔らかな布団の中に包まれている。夢が夢であることを確認した俺は再び眠りに落ちる。
「こら。起きなさい」
聞くのも痛々しい悲鳴ではなく、ここちよいソプラノボイスだった。しかし、微睡の中にあっては一切の音声は騒音にすぎない。
俺は布団を頭までかぶる。
「起きなさいってば」
布団を強引に引きはがされた。唐突に全身が外気にさらされる。
非情なる略奪者は枕元で仁王立ちになっていた。
略奪者の名前はコロナ・クーノ。俺の同棲相手だ。なかなか整った顔立ちをしていて、どこにいっても概ね好意的に迎えられる明るい性格をしている。元軍人のダメ男と同棲している点以外は、健康と健全の象徴のような女性だ。
しかし、今は敵だ。
「うう……ひどい。こんな悲劇があっていいのか……」
体を起こすと、ひどい頭痛がした。早速、布団へ倒れ込みたくなる。
「またこんなに飲んで。悲しいのはこっちよ」
コロナはベッドの周囲に散らばった酒瓶を片付け始めた。甲斐甲斐しく働く姿が小動物的で愛らしいが、今は敵だ。
俺はコロナの意識が酒瓶に逸れた隙に布団を取り戻す。
「ああ、もう」
「んん……時間はいいのか?」
「しまった。私、もう行くから。ちゃんと職安行ってよね」
コロナは慌てた様子で出かけていった。
俺は再び布団に潜り込む。
「ふふふ。働いてなどいるから隙ができるのだよ」
そして、俺は眠りについた。