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世界で最後の職業

  • Eホール(1F) | B-64 (小説|エンタメ・大衆小説)
  • せかいでさいごのしょくぎょう
  • 十八番
  • 書籍|A5
  • 2015/11/23(月)発行
  • *あらすじ
    あらゆる職種の機械化とベーシックインカムにより、九割九分の人間が働かなくてもよくなった時代。
    理奈は職業を持っている稀有な存在だった。
    ゆるく働く日々をすごしていたが、同僚の海良が連続殺人犯の手にかかってしまう。
    理奈は機械化された警察が不得意とする動機から探りを入れる方法で犯人を追いかけるが・・・。

    最後に残ったのは素敵ななにかじゃなくて、とても生々しいもの。

    *冒頭サンプル

    ロローグ

     

     店は今日も静かだった。

     

     私は相方と店の待機室でごろごろしていた。これでも勤務中なのだが、お客さんが来ないのでは仕方がない。近頃は、というか私が入店した時から、こんな光景は珍しいものではなかった。

     それでも店が潰れる心配はない。

     私も、相方も、店長も、本来ならお金を稼ぐ必要がないからだ。

     だから、退屈な仕事をいつまでも続けていられる。いつ辞めてもいい。なんとなれば、今日は気分が乗らないからなどという理由で帰ってもいい。

     私たちの生活は国に補償されているからだ。

     それは私たちが特別に支援を受けているからではない。この時代の、この国の、すべての人間は同じ待遇を受けている。

     九割九分の仕事が機械化されたことにより、国民のほぼすべてが職を失った。しかし、機械に給料は必要がない。

     機械が作り出す労働の成果を人間が搾取することにより、この国はベーシックインカムでかつての平均所得を越えた生活保障をすべての国民に与えることに成功した。

     今、かつての意味で仕事を持っているのは一部の天才の中のそのまた一部の天才たち。

     そして、とても特別でとても普遍的な人類最古の職業についている私たち。

     

     さて、ここで問題です。

     私の職業はなんでしょう?

     

    1.

     

     私は待機室に置きっ放しになっていたゲーム機のスイッチを入れた。みんなが真面目に働いていた時代の先輩が置いて行った年代物だがしぶとく稼働状態を保っていた。

     ソフトは人間のいなくなった東京で、動物がサバイバルをするもの。無限にやり込めるタイプなので時間を潰すにはぴったりだ。

    「理奈。あんた、またそれやるの?」

    「別にいいでしょ」

     私は小型犬を自機(?)に選んだ。北京原人を狩れるくらいにステータスを上昇させている。

    「ふ~ん。動物が好きなんだ」

     相方こと同僚の海良は訳知り顔で頷いていたが、別に動物好きではない。ただ、肉球のついている奴に悪いのはいないと思っているだけだ。

    「理奈が動物好きって、一周回って意外性がない。理奈って目つき悪いけど、雨の日に捨て犬拾ってるタイプだもの」

     私は海良の失礼な発言を聞き流した。この程度は子犬のじゃれ合いのようなものである。この女ときたら、動物好きと聞いて変な意味で捕えるようなやつなのだ。エスカレートすれば、よい子とよい大人にはとても訊かせられないような発言を乱発する。

    「ねえ。理奈、無視しないでよ」

     海良が背後から、私の頭を抱えるようにして抱き着いてきた。海良の腕で目隠しがされて、ゲーム画面が見えなくなる。

    「ちょっと、放して」

     抵抗すると余計に強く締め付けてきた。後頭部に柔らかくも重量感のある膨らみが押し付けられた。かなり強く締め付けられているのに、干したての布団に飛び込んだみたいに気持ち良かった。

     肉体的には。

     さっき肉球のある奴に悪いのはいないと言ったが、あれは嘘だ。

     私にもあるはずなのに、海良しか持っていない柔らかな二つの肉球のスペックをこれでもかと味合わされて殺意が沸いた。

    「――――執る」

    「へ?」

     私はコントローラーを握っていた手を放して、海良の頭を掴んだ。そのまま背中を丸めて、掴んだ頭を引っ張る。

    「きいやあああああ」

     画面のなかでは、かわいい子犬が牛の体当たりに轢き殺されていた。

     現実では海良を私の体の上で一回転させて床に叩き付けられた。

    「いった~い。危ないな、もう」

     お尻から落ちるように投げたので、見た目ほどには危なくないはずだ。加えて、お尻にもかなりのサイズの肉球がついているのだから大して痛くもないだろう。

     私は大きなお尻をさすっている海良をしり目にゲームに戻った。

    「一応、勤務中なんですけど?」

    「お客さんなんて来ないじゃない」

     私たちの業界にも機械化の波は来ているのだ。生活の保障があっても、金銭が無限にあるわけではない。安価であることのアドバンテージは少なくない。それにこの業界の求心力自体が激減していて、取り合う以前にお客さんの絶対数が少なかったりもする。

    「だったら、練習でもしてたら?」

    「一人でどうしろと?」

    「あら? なに、それ、誘ってるの?」

     スッと、海良が体を寄せてきた。肩と肩が触れ合う。私より少しだけ高い体温と、柔らかい肌がほんの少ししかない接触面から強烈な存在感を伝えてくる。

    「ねえ、こっち見てよ」

     脳みその表面を溶かしてしまいそうな甘い声。ほのかに甘いにおいが漂ってくる。

     この世界で他者に食べられることを前提に作られるのは、乳と果実だけだと聞いたことがある。海良は今、全身からまるで自分がそういったものであるかのような信号を発していた。

     餓えるのに、癒される。

     まずい頭が悪くなる。

    「ええい。寄るな。気色悪い」

    「あん。意地悪ね」

     海良は不貞腐れたように、ごろんと寝転がった。子供みたいに手足をバタバタさせている。その反動で、胸の肉球がプルプルと揺れていた。

    「あ~ん。ひまひま」

     ゲーム画面のなかではまたしても私の動物が他の動物に殺されていた。けっこうシビアなゲームなので集中してないとあっさり死んでしまう。

    「仕方ないな……」

     私は海良が興味を持ちそうな話題を探した。

    「そうだ。海良、知ってる? この間、近所で……」

     ノック音。ノックの主は店長だった。お客さんが来たらしい。

    「海良さん、ご指名ですよ」

    「私? また、あの人かな?」

    「ええ。常連のあの人です」

     海良は来ていたシャツを脱ぎ捨てて、ベビードールに着替えた。

    「じゃあ、行ってくるわ」

     海良は相手の頭を悪くする甘いにおいを漂わせながら客のところに向かった。

     

     さて、私たちの職業が何なのか?

     もうお分かりですね

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