勇者降臨トラスティブレイドの短編集です。過去編から本編終了後まで8本収録。思いっきりラストのネタバレもしておりますので本編読了後に読むのをオススメします。(全8巻完結済み)
「凪ぎの昨日から」
仲間が生まれた。
機械知性体オリジネイター内に走った吉報は暴風の勢いで深海都市内を吹き抜けた。
機械知性体は、鋼鉄で構築された身体にアニマと呼ばれるエネルギーを有している。魂と呼ぶべきものを核とする存在は、その誕生経緯も有性生殖を行う生物とは大きく異なっている。
彼らが住まう深海都市の奥深く、星霜の間と呼ばれる区画がある。そこに根を張る大樹のようなものに宿る実が、星となって落ちる。
それが、命のはじまり。
星を集め、機械仕掛けの身体へ納めると新しいアニマはそれを自身の手足と認識して活動を開始するのだ。
そんな特殊なはじまりと生態を有する彼らに、新しい仲間が生まれた。
この百年ほど、その報告は上がっていなかったのでこれまで最年少組だったアウラとレックスの喜びようはなかったが、それは全員にもいえた。
機械知性体は特殊な生態ゆえに、努力や知識で増えるわけではない。すべてが大樹の気まぐれ次第。そもそも便宜上、樹木のような扱いになっているが、正体も性質もわかっていない。なぜ大樹から落ちる星が命となるのか、そして無理やり引きちぎっても自己意識が結実せず、星がただの屑になってしまうのか、種族の根本が誰も解明できていないのだ。命とはそういう風に生まれるものという共通認識があるだけで、最古のオリジネイターであるアトラスも、大樹に関する知識を持っていない。彼もまた、始祖として作り上げられた存在のため、創造主の真意も制作の秘訣も与えられてはいなかった。
彼らに残されたのは、深海都市原型となった施設とこの大樹だけ。
疑問は多く、そして難問も増えていっている。
機械知性体は巨体を有する種族だが、世代を経るごとに個体の身体は縮小する一方。もっとも小柄なレックスは最古のオリジネイターであるアトラスの四分の一程度しかない。
身体の大きさもだが、出生率も大きく下がっている。第五世代以降はわける必要もないのでは、と危惧されるほど個体数が少ない。
誰もが、口には出さなかったが種族としての疲弊と終わりを感じていた。じりじりと削られていくような不安感を覚え、空のない天井を見上げる。
この百年のユニオンは、常に凪いだ海だった。
新たな仲間の出現は、嵐となるか、それとも。
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