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勇者降臨トラスティブレイド6

  • F-20 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • ゆうしゃこうりんとらすてぃぶれいど
  • 六神
  • 書籍|A5
  • 140ページ
  • 800円
  • https://www.pixiv.net/users/2…
  • ハルの襲撃で重傷を負った海里の治療のため、ユニオンは深海都市へと戻ることを決めた。
    その頃、人類の間に奇妙な病が流行り始める。
    身体が結晶化する現象に悩まされる人間をハルは見つめていた。
    そして状況が動き始めたのは人類だけではない。
    イノベント側もハルの出現により揺れ始めていた。

    2016年10月全8巻完結

    重なりあう先に



    「……何なんだよ」

     梅雨も終わりに近づいていた。太陽の光は強く、落ちる影は濃い。久檀コウヘイの首筋を、夏を目前にした陽光が焼く。

     じりじりと皮膚が焦げるような痛みを感じながら、久檀は暑さからとは違う汗をかく。

    「人間に、何が起こってんだ……」

     口元は笑っていたが、とても笑えるような状況ではない。

     彼は先ほど目の当たりにした光景を思い返し、暑さの中で身を震わせた。



     機械知性体の襲撃から早くも数日が経過していた。陸上自衛隊鷹ノ巣山駐屯地内は依然として騒然とした状況が続いている。もっとも、状況が特殊な為、現状では動ける者がかなり限定されていた。外部の助力を請うことができないので、非常事態にも関わらず、広い敷地内の人口密度はむしろ普段よりも大幅に下がっている。

     部下に呼ばれた久檀が訪れたのは、無愛想な灰色の建物だった。そこは内側から窓という窓すべてに目張りが施され、外光が遮断されている。出入り口には衝立があり、人員不足の最中にも関わらず常に二名の隊員が脇に立っていて、ちょっと扉が開いた隙に中をのぞく程度の行為も許さない厳重な警戒体勢がとられていた。

     衝立の奥、倉庫の内部には物がなかった。ただ広いだけの空間。その床には、整然とあるものが並べられている。緑色のレジャーシートのような素材でできた袋が何列もあった。すべて収納済みで、大きく膨れている。

     それらは遺体を収める納体袋だ。

     ひとつを前に、久檀は言葉を失っていた。

     袋の中に納められているのは、彼と同じ自衛隊員の一人だ。襲撃のあった日に死亡が確認された後、ひとまず納体袋に収容され他の遺体同様この倉庫に安置された。

     つい先ほど、部下から報告を受けた久檀は聞かされた内容に驚愕しながらも確認に訪れ、絶句する羽目に陥る。

     遺体は、変化していた。

     腐敗するならまだわかる。倉庫内の空調はフル稼働させているが、広い内部を完璧に冷やすには夏場の時期もあってかなり役不足だ。

     外気温よりは涼しい。だが寒くはない。

     そこで久檀は冷汗をかいている。

    「これは、何だ……」

     緑色の袋は半ばまで開けられ、内部が見えるようになっている。

     中の遺体は表面が硬質化していた。陶器のような光沢を持ち、水晶に酷似した結晶が内側から突き出して林のように伸びている。部下も納体袋を突き破って生えるこの結晶を発見し、彼を呼びに走ったのだ。

     死蝋化。その単語が脳裏をよぎる。

     死後、遺体がある条件に置かれることで腐敗を免れ、体内の脂肪が蝋化する現象だ。

     うろ覚えの知識を引っ張り出してきた久檀は、すぐにその考えを却下する。

     これは違う。もっと違う何かだと、彼の中で警鐘が鳴っている。

    「……空木はどこだ」

     久檀の部下だった空木という男は、襲撃の際に倉庫の崩壊に巻き込まれて命を落とした。男は鷹ノ巣山駐屯地の所属ではなかったが、事件性を考慮して遺体は同じ倉庫内に安置されている。

     久檀の様子に気圧されながらも、こちらです、と隊員は彼を案内する。同じ自衛隊員でも部隊の異なる空木は外れた場所に安置されていた。

     大股で久檀は納体袋に近づきしゃがみこむ。

     ためらいなくファスナーを開けた。

     無言で確認すると、表情を変えずにもう一度ファスナーを閉めて立ち上がる。

     同じ倉庫内にいる空木は、結晶化していなかった。

     久檀は視線をめぐらせる。同じように結晶化した遺体がいくつも見受けられた。進行の度合いは様々だったが、中には身体の半分が別の物質に置き換わったような遺体まであった。報告によれば、結晶の浸食は時間ごとに進行している。

    「何なんだ……」

     同じ問いを繰り返しながら、久檀は倉庫から足早に出る。急に明るい場所に出たので目を細めながら、懐から携帯電話を取り出した。


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