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勇者降臨トラスティブレイド4

  • F-20 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • ゆうしゃこうりんとらすてぃぶれいど
  • 六神
  • 書籍|A5
  • 132ページ
  • 800円
  • https://www.pixiv.net/users/2…
  • 雨の日、海里は少女に出会う。
    だが彼女の存在こそが、イノベントの計画だった。
    機械知性体の彼らは少女の行動に狂わされていくが、そのことに誰も気がつかない。
    そして最悪の再会が待っていた。

    2016年10月全8巻完結

    「はじまりの予感」



     あら、と声を上げそうになり、ユキヒは口元を押さえる。途端、抱えていた洗濯物が手からこぼれた。

     静かにシャツや靴下の片割れを拾いながら、ユキヒは横目で不思議なものを見るように目を丸くする。

     実際、かなり妙な事になっていたのだ。

     リビングの掃き出し窓は、昼間の日光を存分に室内に届けている。その光と暖かさの恩恵を一身に受け、彼女の弟であるマイキは眠っていた。

     大きなものにもたれかかって。

     その何かは、長身の青年だった。最近、よく沖原家を出入りしている海里シンタロウだ。彼は毛布にくるまり、軽く背を丸めるようにして床に伸びている。彼を包んでいる毛布は、濃いピンク地に丸くデフォルメされたうさぎが跳ねている柄。ユキヒの物だ。季節的に、そろそろ洗ってからしまおうと思い、部屋から持ち出してリビングにあるソファの背にかけていた。

     推測だが、眠ってしまった海里を見つけたマイキが手近にあった毛布をかけてやり、そのまま自分も一緒になって寝てしまったのだろう。

     そんな風に想像できるようになった自分に苦笑した。声を出しそうになった口元を押さえ、もう一度、ゆっくりと眺めいる。

     こうして寝ている姿は、まるで兄弟のようだ。ユキヒは最近、彼らを見てはそう思うようになっていた。

     だが、二人の顔かたちはまるで似ていない。マイキは明るい色の髪だが、海里は黒。眼の色やその他の特徴を見ても、せいぜい遠縁の親戚が限度だろう。

     そもそも、彼と弟を比較する方が間違っている。

     海里は、人間ではないのだから。

     彼は二十歳ほどの、どこにでもいそうに見える青年だが、その実態は、太古の昔、地球へ飛来した機械知性体オリジネイターの末裔である。

     彼らは皆、その名前の通り機械の身体に知性を有した存在だ。海里だけは人間に酷似した外装をしているが、他の仲間はすべて、ロボット的な巨体をしている。普段は人間世界に潜む為、自動車に擬態して何食わぬ顔でそのあたりを走り回っている。

     人類の歴史が始まる以前から地球上に存在していた彼らだが、現在は深海三八〇〇メートル付近にある深海都市を主な居住空間としていた。

     海里と他二名の仲間は、調査の為に地上世界を訪れたのだ。

     調査対象は、かつての仲間の動向。

     互いの意思の相違から別れ、深海から地上へ拠点を移した一部の機械知性体は、自らをイノベントと呼称し、まったく別の思想を持って活動を開始する。

     かの存在は現在、人類の殲滅を画策している。その計画を探り、阻止する為に海里達は属している組織から派遣されてきたのだ。

     しかし今、そんな恐ろしい計画が進んでいる事が夢物語に思えるほど、海里は平和そうに眠っていた。時折、微かに震えるようにして身じろぎし、手や足先が動く。

     そこには、定められた動作を繰り返す、機械的なぎこちなさはない。自然な、本物の人間のようだ。

     毛布の端から、海里の足先がはみ出している。足の爪の形や、皮膚の下にうっすらと血管が透ける様を見て、ユキヒは感嘆の息を吐く。

    (これが、全部機械なのね……)

     骨や筋の浮き上がった手足が動く様を見ていると、未だにその皮膚の下が、いや、皮膚も含めたすべてが人工物でできていると説明されたところで信じられない。彼女も一度、裂けた皮膚の下にある金属やケーブルを見ていなければ笑い話ですませただろう。

    (……人間にしか、見えないわ)

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