(↓作品サンプル)
球根
お腹が空いて買い物に出かけたら
タマネギとまちがえて球根を買ってた
三百円の眠るひとレジで育て方を教えてもらう
白、青、ピンク、黄色
─育てやすい色とかありますか
─いいえ、色が違うだけですよただし気温が十七度になるまでお待ちください、と店員
─十七度になるまでどうしたらいいですか
─そのへんに転がしておいてください
キッチンに転がしておいたら、タマネギと駆け落ちしないかな?本当に水だけで育つんだろうか
土がいいなんて言わないだろうか
枯れたあとのことは考えないほうがいいかな
別れたあとのことを考えているうちに
好きな人を取られたことがある─十七度になるまで僕はどうしたらいいですか
─部屋の掃除でもしておいてください
めんどうくさいなあ心もとなかったけれど、花屋を追い出され
球根をつれてそぞろ歩く
あれがコンビニ あれが犬 あれが赤ん坊
ふいに川を見せてやりたくなって、三角州(デルタ)へ
ふたつの川が合わさり、うねり、
手を取り合って遠い海を目指す
そこに取り残される、というたぐいのここちよさ僕と取り残されてくれるかい、これから来る冬を
耳をつけてみると小さな寝息が聞こえた
彼女は眠ってるんだったこの香りは金木犀 雲の端だけが夕日に染まっている空 あそこにいるのはたぶん恋人たち
トンビが目を光らせているけれど
めぼしいものなんてなにもない
コンビニのコーヒー、読みかけの文庫本、長い眠りの球根と、僕
目を閉じてもひとりじゃない、ということ早く会いたいなあ
十七度になるまで待てるだろうか
─二十度とかで起こしたら機嫌を損ねますか?
─カビが生えます
それは困る飢えたトンビが彼女をねらいはじめたので
紙袋にいれて、そうっと持ち帰る
犬が鼻面を近づけてきたので追いやった
金木犀に嫉妬してもいけないな
金木犀が咲いているうちは起こしちゃいけない気がする帰ったら名前を決めよう
僕の眠り姫
早く会いたいなあ
けど、僕はいいかげんお腹が空いた
こちらのブースもいかがですか? (β)
立命館大学短歌会 遠泳 ペーパー・プレーン・レターズ Juggling Unit ピントクル 五行の音階 本村トマソン ねぎてん アイスコーヒー 左岸 Life for Books 藤村羅甸