能を通して自分を見つめる
わたしたちはみな弱法師である
千葉万美子著 盛岡出版コミュニティー刊
岩手日報文学賞随筆賞(1997年)を「弱法師(よろぼし)」で受賞した著者の第一随筆集です。
「弱法師」とは能の題名で、目が見えずよろよろと寺の境内を施しを求めて歩く少年がシテ(主人公)です。そのような境涯ながら主人公は目が見えなくても心の目で見ているから何でも見えるよ、と悟りの境地にいるかのようです。
「満目青山(まんもくせいざん)は心にあり。」
目が見えていようといまいと、ものは心で見るもの。だが、そうできているか、と自分に問うところからこの随筆は生まれました。高校生の時に光を失った著者の兄の人生と重ねて紡がれた作品でもあります。
著者は受賞の翌年から岩手日報紙面の「みちのく随想」に、趣味の能をテーマとした随筆を寄せてきました。
また2005年から16年間岩手日報のコラム「交差点」にも文章を寄せてきました。社会批評であったり、イベントや本、映画、演劇の感想など内容は様々でしたが、それらの中からも能楽に関した文章を選びました。
この随筆集からは能という古典芸能と文学を人生の友として暮らしてきた著者そのものが立ち上がってきます。
能など古典芸能は難しい、現代の生活から遠い、と思われるかもしれませんが、能が抱えているテーマは、神さまなど目に見えない大きなものへの畏怖や敬意、修羅道に落ちた者の苦しみ、男女や親子の愛と別れ、嫉妬や名誉欲、老いや病や死への向き合い方など現代の私たちが抱えている悩みや苦しみ、悲しみ、喜び、楽しみといった人生のテーマとすっかり同じです。
随筆作品にはその作品で触れた能の解説が付され、すべて読むと主要な能の内容が理解できる「能へのいざない」の書にもなっています。
カラーの能舞台写真も豊富な、美しい本です。持っているだけで嬉しい一冊です。
どうぞ手元に置いてお楽しみください。
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