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喫茶 燈台守のとある一日

  • ウ-16 (小説|短編・掌編・ショートショート)
  • きっさ とうだいもりのとあるいちにち
  • ゆら
  • 書籍|A5
  • 44ページ
  • 200円
  • 2021/02/01(月)発行
  • 喫茶店を訪れる様々な人を描いた掌握集。
    以下、各話あらすじと試し読み。

     ○『モーニング』
     →徹夜明けの作家が、朝の散歩のついでに喫茶店を訪れるお話。
     ・試し読み  

     そうして曲がった先に、「喫茶 燈台守」と書かれた看板が現れた。店先の札が、既に営業中であることを示している。夜の続きのようなこの時間から開いているのだろうか。

      そっと扉に手を掛けてみる。扉は見た目より重かったが、鍵はかかっていなかった。

     「いらっしゃいませ」

      糊のきいたシャツを着た店員に案内され、吸い込まれるように窓際の席に腰を下ろす。レコードの音楽が微かに聞こえてくるだけで、店内はとても静かだった。音楽には疎いから、何の曲かは分からなかったけれど。

      注文したのは、サラダにトースト、スクランブルエッグ、そしてコーヒーというシンプルなモーニングセット。追加料金でコーヒーがスープに代わるらしく、カフェインが苦手な私には有難かった。


    ○ナポリタン
     →友達の何気ない指摘から、失恋の痛みを思い出してしまうお話。
     ・試し読み

      三年付き合った人と別れた。

      二〇代も後半に差し掛かる今、それなりに長く一緒にいた人と別れるのは正直色々な意味でしんどかったけど、いっぱい泣いたりカラオケで歌ったりするうちに気持ちの整理もついてきた。昔から恋多き女だったあたしは、失恋の痛みの処理にもいつの間にか慣れてしまっていた。

      今はもう、あの人の好きな曲を耳にしても、雑踏でふとあの人と同じ匂いを感じても、心が騒めくことはなくなっていた。まぁ、何だかんだこうやっていつも立ち直れるんだよね、あたしってば。

     「というわけで今日はあたしの快気祝いに付き合ってくれてありがとー! あたしの今後に乾杯‼」

      シックな店内に似合わないテンションで、あたしはアイスカフェオレのグラスを高々と掲げた。少し困ったように眉を下げながら美和が、気遣うような微笑で玲が、各々自分のコップを軽くぶつける。氷が揺れる涼しい音がした。


    ○シーフードグラタン
     →付き合いの長い二人が、お互いの変化を楽しむお話。
     ・試し読み

     「何でもないよ。わたしはシーフードグラタンにしようかな……途中できつくなったら、修二くんもらってくれます?」

      メニューで一目見たときから心惹かれていたけれど、いかんせんもうすぐ五〇の胃にホワイトソースは重いのだ。それに、元々胃腸が丈夫な方でもないので。

     「いいですよ。じゃあ、注文しちゃいましょうか」

      店員さんを呼び、てきぱきと注文を済ませる。店員さんがいなくなったころを見計らって、修二くんがぽつりと呟いた。

     「変わりましたよね、恭輔さん」

      何気ないからこそ、その一言が深々と胸を抉った。老いなんて、自分で気にしていたとしても他人に言われると余計に刺さってしまうものだ。

      歳を取った。前は新刊の詰まった段ボール箱を幾つ運んでもびくともしなかったのに、今はすぐ腰に響くようになってしまった。もともと老け顔だからか顔立ちはあまり変わっていないと思うけれど、皺や白髪は確かに増えたと思う。

     「わたしも五〇だからね……」

      深いため息と共に零したら、修二くんは素っ頓狂な声を上げた。


    ○クリームソーダ
     →思い出のあの人に、喫茶店での出来事を語って聞かせるお話。
     ・試し読み

      そうそう、この日はメロンソーダを頼みました。アイスクリームも添えられているから、クリームソーダでしょうか。何よりも私を惹きつけてやまなかったのは、その色でした。近頃すっかりぼやけてきた視界の中で、クリームソーダの色だけが鮮やかに目に飛び込んできたのです。

      あの日に見た海のような、深い碧色。少しずつ溶けては滲むアイスクリームの乳白色は、波頭に立つ泡のよう。パチパチと割れる炭酸の音が、私には波の音に聞こえました。

     「まるで、小さな海みたい」

      しみじみ呟くと、息子も、クリームソーダを運んできた孫も、一瞬目を丸くしました。そして、「母さんは詩人だなぁ」なんて二人で笑っていました。「みたい」と言ったけれど、私にとっては海そのものだったのに。

      恐る恐る飲んでみたら、やっぱり強めの炭酸にむせてしまいました。私たち、子どもの頃はこうした炭酸入りの飲み物を飲むことはありませんでしたね。私は今でも飲むのに難儀してしまいますが、あっちゃんは平気でしょうか。


    ○アイスティー
     →空きコマに喫茶店を訪れた大学生二人が、少しだけ距離を縮めるお話。
     ・試し読み

     「子供の頃ってさ、こんな風に平日の真昼間に外食できるようになるとは思わなかったよね」

      ストローの袋を破りながら何気なく呟くと、ホットケーキを頬張った倉内の目が輝いた。よっぽどおいしかったのだろうか。 均一なきつね色に焼かれた表面に、乳白色のバターと黄金色の蜂蜜が淡くマーブル模様を描いている。まるで絵に描いたようなホットケーキを、倉内は綺麗な三角形に切り取りながら食べていた。

     「本当そうだよ。やっぱ大学生っていいね。あとほら、小中高と違って『クラス』って概念が希薄なのも、個人的には過ごしやすくてとても好き」  

     口の中のものをようやく飲み込んだ倉内が、嬉しそうに答えた。その内容に内心驚きながら、俺はアイスティーを啜った。柑橘系の爽やかな香りと、若干の渋みが口に広がる。


    ○チョコレートパフェ
     →自分の気持ちを分かってくれない相手にやきもきするお話。
     ・試し読み

     「ごめんごめん、つづら苺好きだもんな。じゃあもう両方頼んじゃおう。余しちゃったら食べるからさ」
     「えぇ~、それは悪いよ。葵そんなに甘いもの好きじゃないでしょ?」
     「いいってことよ。すみませーん」  

     私が制するのに構わず、葵は手を挙げて店員さんを呼んだ。そして予定通り、チョコレートパフェとイチゴパフェを注文する。一礼して立ち去る店員さんに二人で軽く頭を下げて、私はそのままテーブルに突っ伏した。

     「ずるいよ、そうやって甘やかして……」
     「ん? 何か言った?」
     「別にぃ」  

     私はそう言い返しながら、ゆっくりと顔を上げて葵を見る。真新しいブレザーの制服はまだ見慣れなくて、よく知った相手のはずなのに少しドキドキする。ここがいつもの教室じゃなくて、おしゃれな喫茶店だからかもしれない。


    ○プリン・ア・ラ・モード
     →両親と訪れた喫茶店で、世間の「決まり」について考えるお話。
     ・試し読み

     「デザート、何頼む? ケーキもあるみたいよ」

      母さんがメニューを開きながら、父さんに尋ねる。父さんは首を捻りながら、

     「本当だ。迷うなぁ」

      と呟いた。父さんは甘いものが好きだから、どこかうきうきと嬉しそうな声。今まで気になったことなんてなかったのに、今日は何だかその様子にイライラしてしまう。

     「じゃあ、プリン・ア・ラ・モードで」
     「えぇ?」

      父さんの答えに、僕は思いっきり顔をしかめてみせた。すると、父さんと母さんが、びっくりしたような顔で一緒に僕を見た。

     「どうしたんだい、夏樹」

      もしかして、父さんと母さんは知らないんだろうか。僕はちょっと迷ってから、最近知った「決まり」を教えるために小さく息を吸った。

     「だってさぁ、甘いものが好きなんて、女の子みたいだから変なんだよ」  

     父さんが首をかしげて、母さんが眉と眉の間に皺を寄せたから、「みんなそう言ってるよ」という語尾が消えかかってしまった。二人ともしばらく何も言わないから、僕は少し居心地が悪くなる。


    ○本日のスペシャルメニュー
     →この喫茶店を訪れた「あなた」のお話。
     ※試し読みは割愛します。

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