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【現代】踏切前の喫茶店

  • ウ-16 (小説|短編・掌編・ショートショート)
  • ふみきりまえのきっさてん
  • ゆら
  • 書籍|B6
  • 80ページ
  • 500円
  • 2021/01/20(水)発行
  • 2019年6月9日に刊行された『踏切アラカルト』の第二版です。

    踏切を舞台に繰り広げられる数々の物語。読み終えたときにはきっと、あなたも踏切が気になるはず。

    以下の試し読みに挙げた4話に加えて、プロローグとエピローグ、掌握4話が収録されています。

    以下、各話あらすじと試し読み。

    ○「線路の先が知りたくて」

    →落とし物を拾ったことをきっかけに、毎日見かける彼と交流し始めるお話。

    ・試し読み(上記URLから全文読めます)

     あ、今日もいる。

     背が高くて、よく日に焼けていて、あまり重そうじゃないスポーツバッグを下げている男子高校生。通学路の踏切でほぼ毎日見かける彼のことを、最近のあたしはちょっと気にしていた。

     あたしとは進行方向が真逆の彼は、いつも線路を挟んだ向こう側に立っている。でも視力が二・〇のあたしには、彼のスポーツバッグにぶら下がっているストラップまでよく見えるんだ。黄色い直方体で、一番面積が広い部分が黒い。見えたところで、それが何なのかは分からないけど。

     遮断棒が上がり、彼が歩き出す。白い靴は砂で汚れていて、あたしはサッカー部のクラスメイトの靴がこんな感じであることを思い出していた。

     毎朝こうして踏切で会って、何事もなくすれ違っていく。言ってみればただそれだけのことだ。でも裕子(ゆうこ)に言わせたら、「そういうことから出会いは始まってる」ってやつなんだろうな。

     とはいえあたしは彼の名前も、通っている学校も、学年も、部活も、何も知らない。そして、これからだって知ることはないと思う。あたしはそれくらい、彼に対して「よく見る男子高校生」以上の興味を抱いていないから。

     踏切を渡り終えたとき、不意に大きなあくびが出た。周りに誰もいないことを確認してから、ゆっくりと伸びをする。

    さて。今日も一日が始まる。


    ○「あの日との交差地点」

    →遮断棒が上がるまでの時間に、どこか見覚えのある少年と出会うお話。ゆるいファンタジー。

    ・試し読み

     無情に響く警報音と、延々と目の前を通り過ぎていくコピペしたような貨物列車のコンテナ。この時間帯は「開かずの踏切」と揶揄されるくらい待ち時間が長いことで有名だから、なるべくなら引っかかりたくないのに。

     何でそんなこと知ってるかって、俺は小中高と通学路としてこの踏切を通っていたからだ。多少のダイヤ改正はあっただろうけど、どの時間に列車が通るかくらいは何となく分かるのだ。

     とはいえ登校時間はまだしも、勤め先の昼休憩なんて少しでもオーバーしようものなら減給ものだ。さっきからちっとも変化の見えない目の前の光景に、大きくため息をついた。こうしている間に時間が浪費されていることが恨めしい。いっそこの時間でおにぎりを食べてしまおうか。行儀悪いけど。

    コンビニの袋にちらりと目線をやると、すぐ隣に立つ子供の存在に気がついた。黄色い帽子を被り、ランドセルを背負った小柄な小学生。

     こんな平日のお昼時にどうして小学生が? あ、そういや午前授業というものがあったかもしれない。なにせ自分が小学生だった頃のことなんて遠い昔だ。当時の時間割なんて覚えちゃいない。

    「あのね」

     俺の視線に気づいたのか、ランドセルの少年は唐突に口を開いた。


    ○「遮断されていく世界」

    →相手が他の人と付き合い始めたことをきっかけに、親友との関係性が変化するお話。青春。微恋愛。

    ・試し読み

     いつものように喋っているうちに、踏切が見えてきた。私の家はこの踏切の手前側に、みっちゃんの家はこれを渡った向こう側にある。だから一日のお喋りが終わるのは、決まってこの場所だ。

    「あ、そうだ。私ね、耀(よう)ちゃんに言いたいことがあったんだ」

    「えぇ~何何? 改まっちゃって」

     ちょうど電車が来たから、遮断棒が上がるまでの間もう少しだけお喋りすることにした。こういうことはよくあるし、そのまま話に花が咲いて電車を何本も見送っちゃうことだって珍しくない。

     みっちゃんはいつもより顔を赤くして、ちょっとだけもじもじしていた。そうしてしばらく黙っていたけど、電車が通り過ぎていった頃にようやく口を開いた。

    「あのね、私、藤間くんと付き合うことになった」

    「え?」

     背後に広がる茜色の夕焼け空と、それに負けないくらい赤い顔をしたみっちゃん。ゆっくり上がっていく遮断棒。夕闇に溶けていく警報音。

     この景色を、私はこれからずっと忘れないと思う。


    ○「警報音は鳴りやまない」

    →原因不明の警報音の幻聴に悩まされるお話。微ホラー(のつもり)。

    ・試し読み

     俺が全寮制の中高一貫校に進学したっきり、姉さんとは顔を合わせていない。ちょうどその頃、姉さんも大学とか就職とかで家を出たんだっけ? 実家との距離が遠いせいか、姉さんの消息が曖昧だ。

    かーんかーんかーんかーんかーんかーんかーん……

     警報音が聞こえる。今まで気にしたことはなかったけれど、近くに踏切でもあるのかキャンパス内にまで音が響いてやかましい。

    「うるせぇな」

    「ご、ごめん」

    「いや快晴のことじゃなくて、踏切が」

    「え?」

     快晴が素っ頓狂な声を上げた。はっとして顔を上げると、ものすごく驚いた顔の快晴と目が合った。鳩が豆鉄砲を喰ったってここまで驚かないだろう。

     気が付くと、警報音は消えていた。

    「ごめん、何でもない」

     少し不安そうな表情の快晴に、笑ってごまかす。掌にじんわり汗がにじんでいた。

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