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死出戻りの望み(前後編セット)

  • 南3-4ホール | い-59 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • しでもどりののぞみぜんこうへんせっと
  • 遠野みづき
  • 書籍|B6
  • 124ページ
  • 600円
  • https://www.pixiv.net/novel/s…
  • 2016/8/14(日)発行
  •  加勢したいくさにいつも勝利をもたらす魔人は、死んだ者が生き返って人を襲うという噂を耳にします。その噂の出所は、かつて自分と同じ境遇で生まれ、魔力をその身に宿らせたイリクサという醜女と出逢った小さな村でした。
    「死出戻り」と呼ばれるそれと魔物が現れる村には、腕利きの用心棒たちが集まってきていました。魔人は彼らに混じって死出戻りを探しますが……。
    【前編・後編で一つのお話なのでセット販売にしています。】
     以下、冒頭です。「巣食い虫の望み」その後のお話なので、少々ネタバレ内容になります。ご了承の上お読みください。



    死出戻りの望み


     わたしを拾い上げないで

     祈りの言葉を呟かないで

     誰にも知られずここだけに

     ひとつ残らず留まりたいの


     むかしむかし、目に見えない不思議なことが確かにあると信じられていた頃のことです。悪いことをすれば報いを受ける、人々はそう思っていましたが、善いことだけをして生きていくのは難しく、悪人が栄えることもめずらしくはありませんでした。人々は自らの弱さと世の無情を嘆きながらも、小さな願いも大きな欲も尽きることはないのでした。
     そのためにあちこちで諍いは起こり、人と人とのいがみ合いから国と国とのいくさに変わっていくのもよくあることでした。
     そんな世の中に、いくさの魔人と呼ばれる者がおりました。その巨躯は全身が緑青色、荒々しく伸びた髪は赤銅色、耳の上からは淡い翡翠色の短い角が生えていました。
     武術に優れた魔人が味方したいくさは必ず勝利しましたので、たくさんの国から加勢の依頼がきました。報酬には大金や宝物が差し出されましたが、魔人がそれをそのまま受け取ることはまれでした。
     そのわけは魔人が何より血を好むからだと、人々は想像して恐れました。実際は魔人は人の宝など興味はなく、味方するいくさを選ぶ理由も気まぐれなものでしたが、後になってみるとそれにはいつも何らかの意味があるのでした。
     ひとつところに落ち着けず、さすらいを続ける魔人の楽しみは、そこここに伝わる物語を聞くことでした。お話のかけらが集まっていくにしたがって、世界の成り立ちがおぼろげながらわかってくるのが、魔人の興味をかきたてるのでした。

       *   *   *

     旅の途中の魔人の耳に、奇妙な噂が飛びこんできました。死んだ者が生き返り、森をさまよっては出逢った者を喰らうという、恐ろしい噂でした。
     魔物や巨人が人を襲うという話はこれまでに何度も聞きましたし、実際にそんなものと遭遇したこともありました。けれどもそれが死人だというのは、魔人には初めて耳にすることでした。たいてい死人が生き返るといえば怪しげな者が怪しげな術で死体を操るというもので、永く生きてきた魔人には人の虚しい願望としか思えませんでした。
     魔人はいくさの合間に噂をたどり、いつしかその源である場所の見当をつけました。そこは、かつて訪れたことのある深い森に囲まれた小さな村でした。その村で魔人は魔物になりたいと望む、年増の孤独な女と出会っていたのでした。
     村へ続く街道を行きながら、魔人はまだ日が高いことを気にしていました。閉鎖的なその村で人々に話を聞いて回るには、魔人の姿は目立ちすぎましたし、その名がここまで知れているのは前に訪れたときにわかっていました。フードに覆面、手袋で緑青色の肌を隠しても、怪しまれることは変わりありません。
     魔人は村の手前の林に差し掛かると道をそれ、茂みをかき分けて姿を隠しました。そして荷物袋の底を探り、小さな軟膏入れを取り出しました。村で出会った女、イリクサが作ってくれた変装用の練白粉が入っていましたが、蓋を開けるとそれは乾燥してかちかちに固まっていました。けれども混ぜこんだ香り草の匂いは残っていて、鼻を近づけるとやさしく香りました。
     魔人は木の陰に座り、練白粉に水筒の水を加えて伸ばしました。それを顔と手にまんべんなく塗ると、いつも死角を見るのに使っている鏡で確かめました。肌の緑青色はしっかり隠れ、フードを深くかぶってうつむけば、ぱっと見は普通の人間のように見えました。
     魔人は自嘲するようにかすかに笑うと街道へ戻り、歩き出しました。
     村に入ると、魔人は中心の広場へ向かいました。村の中は昔より行き交う人が減ったように感じられました。村人たちは大剣を背負ったよそ者が歩いているのに、誰も関心がないように見えました。それは好都合でしたが、奇妙なことではありました。こういった場では、人々は遠くから魔人をじろじろと眺め、そちらを向くと息を呑んでそっぽを向いたりそそくさと立ち去るというのが常でした。
     魔人の鼻はかすかに漂ってくる酒の臭いをかぎつけました。こんな日の高いうちから飲んだくれている者がいるようです。
     魔人は、広場の隅で昼食を食べながら世間話をしている中年の男たちを見つけました。声は届いても顔ははっきり見えないほどの近さから、魔人は話しかけました。
    「すまぬが、少し聞いてもいいだろうか」
    「なんだい」
     大工仕事が稼業と見える男たちは見知らぬ大柄の旅人にざわっとしましたが、お互いに目配せをして静かになりました。いちばん年かさの棟梁らしき男が魔人をじろりと見上げて口を開きました。
    「あんたも魔物狩りに来たのかい」
    「まあ、そんなところだ」
     とりあえず魔人は話を合わせました。
    「だったら、お仲間が酒場にいるよ。そっちのほうが詳しい話を聞けるだろう」
     男は手で酒場の建物を指し示しました。魔人はそちらを見て、酒の臭いがするわけに合点がいきました。
    「魔物退治の連中は、そこに集まっているのだな」
    「ああ、そうだよ。あんた、ここで魔物狩りをするんなら海石(イクリ)さまに挨拶しておくんだな」
     魔人はその名の独特な響きに少し引っかかりました。
    「誰だ、その者は」
    「領主さまが遣わしてくださった、強くて頼もしいお方だよ。海石さまが来てから、村はずいぶん静かになった」
     年かさの男はしみじみと言い、他の男たちもそうそうと相槌を打ちました。
    「魔物はいつごろから現れるようになったんだ」
     男たちは顔を見合わせて黙りこみました。しばらく沈黙が続き、また年かさの男が口を重そうに開きました。
    「そうさねえ。数年前ってとこかねぇ。もうそれが当たり前になっちまったもんで、はっきりと覚えていないのさ」
     他の男たちは黙々と昼食を口に運び続けました。
    「ふむ。ところで、死んだ者が生き返ったという噂を聞いたんだが」
     男たちの顔色がすっと青くなりました。年かさの男がぎょっとしたように聞き返しました。
    「そ、その噂はどこで聞いたんだい」
    「あちらこちらで流れているさ。生き返ったそれが腐りかけた体で夜な夜な徘徊し、出逢った人間を襲っては喰うという怪談のようだったがな」
     男たちはため息をついて肩を落としました。
    「それが本当なのかは、おらたちにはわからねえよ。村のもんは、獣のような姿の魔物に襲われたことはあるが、その……『死出戻り』を見たもんはいないんだ」
    「死出戻り?」
    「ああ。死出の旅から戻ってくるから死出戻りって呼んでるのさ」
    「そうか」
     魔人は手がかりが掴めずに拍子抜けしました。
    「おらたちは、魔物やらのことはよくわからないし、知りたくもないんだよ」
    「だから、海石さまに話を聞いたほうが早いよ」
    「そうそう」
     男たちはうつむいてこぶしを固く握りました。
    「わかった、そうするとしよう。邪魔をしたな」
     話が終わってほっとする雰囲気が男たちから伝わってきました。魔人は小さくため息をついて、広場をはさんで反対側にある酒場へ向かいました。
     酒場の扉を開けると、ぶどう酒がすえたような臭いが漂いました。薄暗い店の中は並びの乱れたテーブルや椅子がごちゃごちゃになって、その下には酒瓶やごみが転がっていました。その中に、いかつい男たちが酔いつぶれてあちこちに眠りこんでいました。一見、武器らしいものは何も持っていないようでした。
     開いた扉から光が射し、カウンターを照らしました。その向こうから店の主人らしき恰幅のよい中年男が恐る恐る顔を出しました。魔人は椅子やテーブルをよけて主人のほうへ進みました。
    「ここに、魔物退治のつわものが集っていると聞いたんだが」
    「ああ、まあ、そうですよ。みなさん今はお休みですがね」
     主人はへらへらと愛想笑いをして、眠っている男たちを示しました。
    「魔物が現れるのはきまって夜。だから昼間はこのとおり、ということか」
    「ええ、そうです。あなたさまも魔物狩りにですか」
    「そうしようかと考えているところだ。話を聞ける者はいるか。海石という人物に会っておくべきだと大工の親父に言われたんだが」

    サンプルはここまでです。
    ピクシブにはもう少し長く載せています。

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