こちらのアイテムは2024/12/1(日)開催・文学フリマ東京39にて入手できます。
くわしくは文学フリマ東京39公式Webサイトをご覧ください。

北海道一周旅行 最果ての僕ら

  • い-59〜60 (小説|エンタメ・大衆小説)
  • ほっかいどういっしゅうりょこう さいはてのぼくら
  • 武中ゆいか
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 72ページ
  • 600円
  • 2023/5/21(日)発行

  • ■「北海道一周旅行 最果ての僕ら」

     作品
     北海道一周旅行 最果ての僕ら
     セーラー服のスカーフが翻るとき
     真夏の蜃気楼から逃げ出すように 
     「あなた誰なの?」
     特等席
     震える

     
     「北海道一周旅行 最果ての僕ら」  著者:武中ゆいか 
     
     目覚めてカーテンを開けると、水色の空が広がっていた。
     いざ陽の光の函館観光。
     
     ホテル近くの五稜郭をまずは散策。  
     遥か彼方の日本史の記憶を呼び起こすが、函館戦争の文字は出てこなかった。  
     教科書や学校で、文字通り机上で学んだ事は、私の場合どうやらすっかり抜け落ちてしまうらしい。  
     またいつか忘れてしまうことだとしても、単なる文字を血肉の通った知識に変えようと懸命に解説を読んだ。  知らないことばかり。忘れてしまうことばかり。  
     その中でひとつでも知っていることが増えたら嬉しい。  
     その中でひとつでも覚えていられることがあれば幸せ。
     
     城壁に残った武者返しと鼠返しを頭の中でコネクトさせ、五稜郭健在の様子をイメージしてみる。  
     頭の中であれやこれやと考えるのは楽しい。
     
     潮の風 蕾ゆらす 五稜郭
     
     ぐるっと歩き、また次の目的地へ。
     函館市旧イギリス領事館、旧函館区公会堂。西洋文化と港町に横浜外国人居留地や神戸を思い出す。港。急な坂。そこから見下ろす街の景色。  
     文化的建造物が今なおその街で大切にされ続けていることに人々と街の歴史を感じた。
     
     私はこの街が好きだ。  
     路面電車の信号がよく分からなくておっかなびっくりの運転だったけれど。凍てつく冬の厳しさを知らないけれど。  
     それでも。
     
     陽光できらきらと眩しい函館湾沿いをドライブしながら次に向かったのはトラピスト修道院。  
     白と黒の箱が特徴的なトラピストクッキーや青く真ん丸な缶入りのバター。どちらも母のお気に入りだ。もちろん美しい杉並木を見てみたい、売店で売っているソフトクリームを食べたい気持ちもたしかに強かった。  
     けれども、それだけが理由ではなかったと思う。中学をカトリックのミッションスクールで過ごした私には、なんとなく気になる場所であった。
     
     海沿いから山か丘か、とにかく高い場所へ向かうやや細い道を入ると、両側を杉並木に囲まれた修道院へ続く一直線の道に出た。
     ため息が出るほど荘厳だった。
     まるでその杉並木を抜けるとどこか違う世界へとトリップしてしまいそうな厳かさがあった。
     
     後ろからくる車がいないことをミラーで確認し、少し減速しながら気持ちをチューニングする。
     修道院入口手前にある売店の駐車場に車を停め、修道院まで続く坂を上った。辺りは鳥のさえずりと風で時折、木々の枝葉が擦れる音だけだった。登りきると、まるで来るものを拒むかのような立派な鉄格子に『灯台の聖母 トラピスト修道院』の文字を挟む二人の修道士のレリーフらしきものがあった。
     ここから先は女人禁制。男子修道院だ。
     
     静けさは巷に溢れる欲望の音からまるで無縁だった。慎ましさに音と匂いがあるとするならば、トラピスト修道院を包む自然だろう。
     門扉の両脇に作られた部屋のようなスペースで修道士の暮らしや修道院の歴史を知る。  
     三木露風が講師として、この場所に住み、童謡『赤とんぼ』を書いたことも初めて知った。
     この教会での日々を詞にしたものではないけれど、そぎ落とされた中に浮かぶ情景はこの地で触れた修道士たちとの生活もあるのではないか、と段々と赤みを帯びていく空を見て考える。
     夢想に近いが、この澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込むとそんな気がしてならなかった。
     
     トラピスト 包む静寂 神のみ旨 
     
     帰りも杉並木を通り抜け、下界へと戻る。  
     ここからまた二百キロ北上し今度は倶知安へ。
     ニセコに近い羊蹄山を望む街が次の滞在地だ。  
     札幌から函館へ至る道を逆方向に車を走らせた。
     

    < 続く >

ログインしませんか?

「気になる!」ボタンをクリックすると気になる出店者を記録できます。
「気になる!」ボタンを使えるようにするにはログインしてください。

同じ出店者のアイテムもどうぞ

雨の日の、選ばないという選択Detour Ahead 迂回ルート甘々なアイスコーヒーが良いに決まっている何気ない日常がかげがえなく愛おしい四節の輪舞曲(ロンド)電車にゆられて家族がみんな隠しごとをしている青の鼓動葵たちさう起結十時前春と、パリの回想北海道一周旅行 最果ての僕ら六月の花嫁

こちらのブースもいかがですか? (β)

高宮文藝書店  ちょこっと  道草パレット  桜庵  故喫茶  人生は緑色  fishy_words  青天Rojic  ですとぴーぺ    

「気になる!」集計データをもとに表示しています。