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短編集 エトランゼ

  • 第一展示場 | A-30 (小説|純文学)
  • えとらんぜ
  • オカワダアキナ
  • 書籍|B6
  • 80ページ
  • 700円
  • 2022/1/16(日)発行

  • エトランゼ(étranger) 見知らぬ人、外国からやってきた人、異邦人。

    [本文より]
     祖父の右耳にはいつも鉛筆が挟まっていたが、これは祖父が大工だったためで、おれも真似をしてみたがおれの鉛筆はするする落っこちた。子どもの耳じゃ小さいから無理だと祖母が言い、たぶん、落とした鉛筆をおれが踏んづけやしないか、足に刺してしまわないか、心配してくれていた。祖父は、毎日挟んでいるから鉛筆を支えやすい耳の形になったのだと言った。だから左の耳だとうまくいかないとうそぶいたが、やってみせてくれたわけではないのでわからない。
     たまに鉛筆は赤ペンになった。赤ペンの日は競馬の日で、祖父はまじめな顔で新聞を広げ、テレビの前に陣取った。ファンファーレが鳴りがしゃんとゲートが開くと馬たちは一斉に走り出し、アナウンサーが早口でまくしたて、観客たちもだ、轟音と怒号がまざりあった。祖父もちくしょうとか馬鹿野郎とかヤジを飛ばし、おれは隣に座って横目で眺めた。スポーツ新聞にはちょっとエッチな記事も載っていたからで、といったって風俗レビューとか不倫の体験談とか多少の漫画くらいだったし、それらの記事の意味だってよくわかっていなかったけれども、ともかく二次元でも三次元でもいいから女の乳首を見たかった。赤ペンは、蓋も軸もなかみも濃い赤色をしたマーカーで、学校の先生がマルつけに使うものと似ていたがあれとはちがうものだと自分の中で分類していた。祖父の赤い二重丸や三角印は小さく乱暴だった。けどもかわいい形だと思った。祖父は馬券を電話で買っていた。祖母のパッチワークの電話カバーをそろりと剥がし、背中をまるめてなにやら電話し、耳のところに赤ペンをさしたままで、じゃあ、電話の声は左耳で聞いていたということだ。


    最近書いたものをまとめた小品集です。ネットプリントやweb企画、コピー本などの再録が主です。

    収録作試し読み「耳鉛筆」:
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13096488

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