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短編集 百々と旅

  • 第一展示場 | A-30 (小説|純文学)
  • どどとたび
  • オカワダアキナ
  • 書籍|新書判
  • 140ページ
  • 700円
  • 2020/5/1(金)発行

  • たぶんぜったい泣かない。

    [本文より]
     彼女は灯台ではなく雨量観測塔だった。わたしは長いこと、彼女を灯台だと思っていた。母の写真で見ていただけだったので知らなかった。そうではないと知ったのは誰かのインスタグラムによってだった。  少し前からフォローしている灯台マニアのアカウントで、日本中の灯台を撮ってまわっており、ぽつぽつ数日おきに灯台の写真が流れてくるのが、なんだかよかった。プロフィールに「She is beautiful.」とあり、わたしは灯台が女であることを知った。ほっそりしているもの、ずんぐりしているもの、白い女、縞模様の女、タイル貼りの女……。彼女たちはみんな孤独に見えた。わたしはいつも眠る前、知らない誰かの収集した女たちを眺める。夢の中で彼女たちにハグする。夜風に吹かれたタイルの肌は、きっとひんやりしている。  写真の中で母は笑っている。今よりちょっと若く見える。母は塔を見上げ、ピースサインだけレンズへ向けておどけている。塔はしずかに立っている。彼女のすがたかたちは灯台によく似ていた。三浦半島の大楠山だ。白いからだでにょっきり立っていた。山の緑から突き出たあたまはきっと海を見渡している。大楠山は海のそばで、もしも彼女が灯台ならば、光を振り回し船たちを導いた。どのような晩も休むことなく、きっとレンズのひとみは赤い。いや白か? 彼女の足元は小さな畑で、春には菜の花が咲く。

    レズビアンの女の子が物語る表題作ほか7編の短編集。
    2018~2019年のアンソロ寄稿作などをまとめました。

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