恋の成就とはなにか。
好き合うこと、付き合うこと、まぐわうこと、結婚すること、さらにはそれを継続すること。
櫃子の恋はそれらのひとつも成さないが、それとは別に成すことがあった。
中学二年で相田と出会い、それから卒業までの二年間、櫃子は己の肉体の鍛錬に努めた。
相田をいじめから救うのに、実行犯の皆殺しを画策したのである。しかし計画は未遂、中学卒業を機に櫃子と相田は離れ離れになってしまう。
孤独にひたすら鍛錬するばかりであった櫃子は結局、二年間で相田と一言も交わすことはなかった。
”これでいいのだ、と櫃子は考える。相田には相田の幸せがあって、それでいいではないか。自分には踏み込めない相田の領域を、少しそばから見ているだけで、自分の恋はそれでいい。今こうして相田の後ろを歩いているだけで、こんなにも心が躍るのだから。櫃子の人生でこんなにも幸せなのは、初恋の渦中に筋力トレーニングに明け暮れたあの日々にだってもしかすると、なかったことかもしれない。”
出会いと別れ。地獄の淵で見出した希望の光。
過度に再生した恋心に突き動かされて、果たすのは再会にとどまらない。
恋に生きるとはなにか。
櫃子の自問自答はやがて、実質的同居生活という抜け道を導き出す。
恋など無縁と思い込むあなたの自意識にこそ侵犯を試みる、無尽蔵な恋物語。
こちらのブースもいかがですか? (β)
大阪大学感傷マゾ研究会 書肆侃侃房 滝口悠生と植本一子 中村庄八商店 代わりに読む人 双子のライオン堂出版部 エリーツ 斜線堂有紀 犬と街灯 SF文学振興会