最初の外海2015
五島列島2020
二度目の外海2020
偶然が重なり外海へ
二〇一五年一一月、秋雨が降っていた。
長崎に旅に出てお目当ての県立美術館の展示を見て、半日時間が余ったのでどうしようかと、傘を差しながら暗い空の下で市内をふらふらしていた。
観光名所になっているところは、何度目かの長崎だからほぼ回っている。キリシタン殉教跡や原爆関連など人々の苦悶が刻み付けられた地には、足を運びたくない冷たい雨だった。
ふと手に取ったパンフレットの中で触れられていた潜伏キリシタンの里の話。
「外海(そとめ)は、角力灘(すもうなだ)に面した地域で、西彼杵(にしそのぎ)半島の西岸地域をいう。禁教時代から明治まで、潜伏キリシタンが代々信仰を密かに受け継ぎ、遠藤周作『沈黙』の舞台ともなった。明治初めに来日し、外海の出津(しつ)地区には、キリシタンのために一生を捧げたド・ロ神父(1840-1914)が建てた教会、潜伏キリシタンの遺物を展示した地域の博物館、遠藤周作記念館などがある」
長崎市内だから、半日あれば十分行って見て帰ることができる。ここに行ってみようかな、と思った。だが、バスセンターが複雑すぎて、複数の路線バスが同じところにやってくるので、外海方面に行くバスがどれだかわからない。数分起きにひっきりなしに到着しては大勢の人が慌ただしく乗り降りする。運転士に尋ねる余裕もなくバスのドアが閉まる。
言葉がわからない外国人のように、十五分ほど入っては出て行くバスをぼうっと見送っただろうか。空は灰色で肌寒く、ふらりと行きたいと思ったことさえ、もういい加減どうでもよくなって、停留所を離れようとした時だった。
「あんたも、どろさまのお墓まいりば行かれるとですか」
声をした方を見ると、小柄な年配の女性が、わたしの方を向いていた。
どろさま? 不思議な響きだが、きっとパンフレットの中に書かれていた外海の人々に尽くしたというド・ロ神父のことだろう。この女性は、百年以上前に亡くなったド・ロ神父のお墓まいりにいつも通っているのだろうか。しかし、なぜ、わたしが外海に行きたいことがわかったのだろう。
「はい、外海に行きたいと思うのですが、このバス停でいいんでしょうか」
「あと十分くらいでバスは来ると思いますが」
と言って、女性は片足を引きずりながらゆっくり去っていった。
行くのをやめようとしていたわたしの肩を掴み、もう一度視線をド・ロ神父に向けさせられたようだった。外海へ行こう。そう決めて、わたしはバスを待った。
こちらのブースもいかがですか? (β)
目白大学メディア文化ゼミ エクセレント此岸 おーもりんご文庫 inumimisha 専修大学ネットワーク情報学部杉田研究室 Mekiki Books キャラバン 橙黒屋 青春あんよあんよ 交換日記