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竜胆と薄桜

  • ソ-25〜26 (評論・研究|文芸批評)→配置図(eventmesh)
  • りんどうとうすざくら
  • みけ&yuu
  • 書籍|A4
  • 80ページ
  • 500円
  • 2021/02/28(日)発行

  • 2021年2月28日の春コミ「閃華春大祭 2021」で頒布した刀剣乱舞二次創作小説本です。

    A5版/本文80ページ/500円/手作り本
    髭切✕女審神者(竜胆の章) → 膝丸✕女審神者(薄桜の章) 主二代、50年以上に渡るとある本丸の物語。全年齢向け。
    全体ではハッピーエンドですが、死にネタあり、捏造設定多々あり。 源氏兄弟のほかに、鶴丸国永、三日月宗近、岩融、今剣、へし切長谷部、蜂須賀虎徹、山姥切国広、乱藤四郎、加州清光、大和守安定などなど登場。 他本丸の一期一振、骨喰藤四郎も。


    ↓冒頭立ち読み
                           

     人ひとりを埋める穴を掘るというのは、案外と骨の折れることだな。  鶴丸国永は、本丸の庭の一画に聳える桜の巨木を見上げ、こめかみを流れ落ちる汗を袖口で拭った。花の季節にはまだ少し早く、足元の土も固く冷たい。

    「私が死んだら、あの桜の木の根本に埋めてほしいなあ。お墓はいらないからさ」
      鶴丸がこの本丸の近侍となって間もないころ、並んで縁側に座り、花見をしながらそう言ったのは、この本丸の主だ。「死んだら」など不吉なことを言うな、そんな驚きはいらないと鶴丸が苦い顔をすると、別に今日明日に死ぬ予定があるわけじゃないよと笑った。
     「もっともっと先、しわしわよぼよぼの腰の曲がったおばあちゃんになって、ボケ老人になったあげくかもしれないし」
     「そうしたら介護してやるさ。ボケて、俺があっと驚くようなことをやらかしてくれることを期待してるぜ」
      ころころと笑うかわいらしい笑顔。我が主は審神者としての能力も十分に高く、その任務をこなしているときのきりりとした顔は類を見ないほどに美しく、こうして共にくつろいでいるときはとてもかわいい。ずっと顔を見ていたい。いや、顔だけじゃない。頭の先から爪先まで、その佇まい、仕草まで、どれを取っても美しく、かわいらしく、片時も目を離せなかった。
      鶴丸は以前、この本丸の主の美しさ、かわいらしさは少し異常ではないかと、初期刀の蜂須賀虎徹と話し合ったことがあった。蜂須賀は「私もそれは常々思っていたことです」と真顔で言い、これはなにか対策を講じるべき事柄なのではないかと二振りで真面目に議論したものだった。
      いくら話し合っても当然のことながら埒は開かず、思い余って相談にいった三日月宗近は、
     「我ら刀剣男士にとって主、特に女人の主は最愛の主君であり、母親であり、恋人でもあるからな。みな自分の本丸の主がこの世で一番美しいと思い込んでいるのさ。要するに、気のせいだな」
      などと身も蓋もないことを言う。しかし、そんな三日月にしても、小首をかしげた主に「ねえ、三日月。お願いがあるのだけど」と上目遣いに言われたりなどしたら、その内容を聞く前に「主の願いならばなんでも聞くぞ」と相好を崩すのだから、どうしようもない。
      そんなふうに、本丸の刀剣男士たちはみんな主のことが大好きだった。ずっとずっと一緒に笑っていたいと思っていた。しかし、人間の命は刀剣に比べてあまりにも短い。そのことも刀剣男士たちはよく知っていた。こんなふうに終わるとは誰も思っていなかったけれど。
     「きれいだねえ。私、この本丸の桜、大好き」
      華奢な肩にかかる長さに切り揃えられた髪が揺れていた。その髪に、風に舞った桜の花びらが届き、止まる。艷やかな漆黒に薄紅の色がきれいだった。
      そう、あれはまだ主の髪に白いものが交じる前のこと。黒髪は烏の濡羽色に輝き、ふっくらとした頬は花びらの薄紅色だった。
     「どんなふうにいつ死ぬことになるかなんて自分ではわからないけど、でも、死んだあともあの桜の木の下にいられるんだって思ったら、死ぬのも悪くないかもって気がするんだよね」
      あんなに見事な満開の桜だったのに、ほかには誰もいないふたりだけの花見だったと記憶している。だから、これは俺の仕事だ。  鶴丸は、たったひとりで、刀ではなくスコップを振るい続けた。

     突然の主の死に本丸は上を下への大騒ぎとなり、しばらくは収拾のつかない状態だったが、いち早く気を取り直した蜂須賀とへし切長谷部が時の政府に連絡を入れ、こういう場合の対処を聞き出した。
      そう、本丸で主が「病死」した場合、我ら刀剣男士はどうしたらよいのか、と。
      主の死について詳しいことを知る者は限られていたが、なんとなく察した者もいて、そのように口裏を合わせることは最初から決まっていた。この本丸を守るため、死んだあとでもあっても大事な主を守るため、仲間であるあの刀剣を守るため……、それぞれ理由には少しずつのずれはあったかもしれないが、本当のことを外に、特に時の政府には知られてはならないと、本丸の全員がそう思っていた。
      年老いた、あるいは病を得た主が本丸で亡くなることは、ほかでもたまにあることらしく、時の政府からはその場合のマニュアルが送られてきて、実務的なことはそれに従って粛々と進められた。しかし一連の手続きの最後、主の亡骸は人間の世界の親族のもとに送ることとマニュアルにはあったが、それはできなかった。
      主には近い親族というものがもういなかったのと、それから、主の亡骸を見れば病死ではないことは明白だったからだ。送る先が親兄弟ではないのなら火葬してからでもいいのではという意見も出たが、自分たちの主を主自身が顔を見たこともないだろう遠縁の人間のところへ送ることもためらわれた。どうしたものかと古参の刀たちで額を突き合わせていたときに、桜の木のことを鶴丸が言い出したのだった。
      時の政府に問い合わせると、いくつかの注意点を確認されただけで拍子抜けするほどにあっさりと許可が下り、そうして主の亡骸は本丸の桜の木の下に埋葬することになった。
      当然みんながやりたいと言い出したが、鶴丸は埋葬のための穴を掘るのは自分ひとりにやらせてくれと懇願した。その熱意に押し切られる形でみんなは了承し、鶴丸は、植物や園芸に詳しい者たちに太い根の張っていないできるだけ桜の木に近い位置を教えてもらい、鍬とスコップ、細い根を断ち切るための鉈や鋸まで用意して、作業に取り掛かった。
     「では、たんとうたちはあるじさまのおはかのかわりになる、ほこらをつくるためのこいしをあつめてきますね」  主は墓はいらないと言ってたぜと鶴丸が言うと、今剣は「わかってませんね」と頬を膨らませた。
     「おはかというものはしんでしまったかたのためではなく、のこされたもののためにつくるのです。……
     


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