特記することのない日々になってしまったぼくたちの絶望は、更新もせず、そこらじゅうに蔓延っている。僕たちが立ち竦むのも項垂れるのもぜんぶ頭の中で、想像上のなにかを配置しているだけ。
"傷口にアルコール消毒をするときの痛みがくせになっていた。ぴり、と皮膚の内側が痺れている。僕はなんども血のにじむ患部をつよく擦った。僕は、殻や膜をもつ卵や、硬い網に包囲された整圧器のように、刺激を加えなければ刺したりしない蜂です。蜂蜜は要らない。あるいは鮫です。血は要らない。それでも僕はお行儀よく血を垂れ流していた。そして僕らは、すべて同じ導火線の先にある。分岐しているように見えるだけだ。"
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2016年発行の「拾遺」、2017年の「りんゑ」「文學隊」、2018年の「追薦」から13の短編と9作の短歌+140字小説を再収録。書下ろし「黙する内臓」を加え、約3年間の作品を1冊の本にしました。
より細かいサンプルは、齊藤のtwitterに掲載しています。