誰だって、いつまでも二十代ではいられない。今の僕には馬鹿げた夢を諦めるだけの材料が余るほどある。
でも、夢を諦めたところでどうする? 今更、お盆や正月にさえ帰らなかった放蕩息子が田舎に戻って、妹の旦那と同じ職場で月ごとの浄水器の売り上げに神経を尖らせることだけを、これからの人生にするのか。そうして腰を据える覚悟が自分にはあるのか?
どん詰まり。壁のひびが同情したように笑っていた。(表題作「理由なき誘拐」より)
短編集
133頁
全六編
夢を諦めるか見続けるか、その狭間に苦しむ男はある日突然、理由もなく誘拐される(「理由なき誘拐」)、
財布にいつもより少しだけ金を入れていた青年の前に、「人売り」を名乗る男が現れる(「白昼夢」)
卑屈で気味の悪い蛇と、その蛇に嫁に差し出された娘(「蛇の嫁取り」手製本再収録)――など
誰の支えになれなくても、心が細った時にそっと寄り添える話であったらいいなと思います。
相変わらず何となく身の置き所の無い物語ですが、お気軽にお手にとって頂けると幸いです。
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