こちらのアイテムは2019/5/6(月)開催・第二十八回文学フリマ東京にて入手できます。
くわしくは第二十八回文学フリマ東京公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

【委託】斑

  • ツ-20 (小説|短編・掌編・ショートショート)
  • まだら
  • 磯崎愛・うさうらら
  • https://twitter.com/i/moments…
  • 2019/3/21(木)発行


  • 蛇腹の表に磯崎愛の小説、裏にそのイメージイラストを配したおなじみ花うさぎコラボの手製本です。菊花、海、三好達治の詩、、、「海柘榴」の主人公たち再登場です。



    ーーーー 試し読み ----

      海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。   そして、母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。
                                 三好達治 「郷愁」


    「おかあさん、ぼくのおなかふくれてる」
     夜中に手洗いに立って、勝はじぶんの腹がぽっこりとせり出しているのを見た。
    そういえば夢のなかで赤ん坊を抱いた気がした。従弟の徹にしてはずいぶんとちいさかった。
      大人たちは掘り炬燵のある居間にいて、紅白歌合戦を見ている。そのなかに蜜柑の白い筋をとっている母を見つけて声をかけた。
      あらあら、と母親より早く立ち上がったのは叔母だった。
      みなが半纏を着てもっさりと丸くなっているなか、白いセーターをすらりと着こなしている。叔母が膝をついて、おなか痛いのかしら、どれ見せてごらんなさいと声をかけてきたので、じぶんがなにをしでかしたのか気がついた。
     「だいじょうぶです」
      勝はきっぱりとそう言った。来年の四月には小学生なのだから、あまりみっともないところを見せたくなかった。つい寝惚けて叔父や叔母がいるのを忘れて来てしまったのだ。母親をうかがうと蜜柑の房を手にもったまま、曖昧にほほえんでいる。 助け船を出してくれそうな気配はまるでない。父は、その隣りに寝転がって口をあけて高鼾だ。叔父は鯖のへしこをつつきながら猪口を傾けている。風呂にでも入っ風呂にでも入っているのか、祖母がいないのが救いだった。
    「可南江」
     勝くんがだいじょうぶと言っているだろう。叔父が徳利を片手にもったまま、そう言った。母親も、調子をあわせた。可南江さん、そういえば苺もあったわね。
     「あ、それは明日ケーキに入れようとおもって」
      叔母が慌てて立ち上がり、台所に向かう勝の母親の後を追う。
      取り残された勝は叔父を見た。叔父は、テレビにうつる演歌歌手を見ていた。
      叔父はギターが弾ける。勝の父親のように浮気をうたった歌謡曲などもがなったりしなかった。女子大を出た山の手のお嬢さんを嫁にもらったと祖母が自慢していた。そのとおり、叔母の可南江は洒落た洋風の料理やお菓子をつくる。祖母のいるせいか茶色いお煮しめや魚料理ばかり出てくるいつもの食卓にはない華やぎがこの数日はあった。

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