恋愛を怖がるようになってしまった司のために、僕は優しい友達のふりをする。でもこの関係、いつまで続くのだろう?ボケ×ボケのボケ倒しグルメBLです。【本文抜粋】
「そのディナーに使うお金でさ、チーズフォンデュ用の鍋買ってくれない?」
「チーズフォンデュか…… 食べたことない」
「実家で時々やってたんだけど、こっちに来てからは道具がなくて」
「良いよ。何か楽しそう」
僕たちは午前中から買い物に出て、チーズフォンデュ用の鍋とコンロ、それに野菜やパンを買ってきた。チーズはスイスのエメンタール。チーズを溶かすのと飲むために、白ワインも二本用意した。
「じゃがいもは茹でてから皮をむく!」
「あっつ! あっつ!」
「火傷しないようにね」
司と一緒に料理するのは楽しかった。ライ麦パンとじゃがいもとにんじんとブロッコリーを一口大に切る。それらを串に刺し、ふつふつと香り立つとろけたチーズに突っ込む。
「じゃがいもがチーズの中で崩れた!」
「スプーンで回収して」
「チーズが、伸びるー」
僕が糸引きチーズをパンにからめている間に、司はスプーンを口に入れた。
「あぐっ」
「口の中火傷しないようにね」
僕たちはふだんそれほどお酒を飲まない。しかし熟成されたチーズの味は恋するように狂おしく辛口ワインを求めるようで、二人とも飲み過ぎて肌が真っ赤になった。
「翼、手まで赤い! 大丈夫?」
「司だって赤いよ」
僕は優しい友達のふりをして、司の左のてのひらに触れる。
「じゃがいもの皮むいた時に火傷しなかった?」
「手より口の中が少し痛い」
「慌てて食べるから」
「美味しくて我慢出来なかった」
「単純な食べ物だけど、最高だよね」
いつものように二人で大きなクッションに寄りかかる。司が手を握ってきて驚いた。でもすぐに、寂しいのかもしれない、と思った。
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「贋オカマと他人の恋愛」の続編でもあるのですが、主人公が変わって全く新しい物語が始まるので、この本だけでも問題なく読めます。「贋オカマと他人の恋愛」の主要人物である七瀬や周平や克巳やメグは、脇役として登場。両方読むと彼らのその後が分かってより多く楽しめますよ、というだけです。ご安心を。