こちらのアイテムは2016/11/23(水)開催・第二十三回文学フリマ東京にて入手できます。
くわしくは第二十三回文学フリマ東京公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

遣らずの雨が降る時

  • Eホール(1F) | E-11 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • やらずのあめがふるとき
  • sunny_m
  • 書籍|B6
  • 44ページ
  • 200円
  • http://www.pixiv.net/novel/sh…
  • 「ここじゃないどこかの街で起きた、少し不思議で、かなしいお話」

    ――
    綺麗も汚いもすべて飲み込む様に、柔らかな雨が降っていた。
    夜の闇の中、路地裏に転がっているのはどろどろに酔いつぶれた野郎共。疲れ果てて足を引きずりながら歩く青年はくたびれ顔。建物脇の非常階段に蹲るのは化粧の剥げた売れ残りの娼婦。野良猫のような浮浪児たちは闇に紛れて悪巧み。
    怠惰でかなしい夜の景色の中を、仕事を終えた私は家路を歩いていた。ぱしゃんと水たまりを踏みつけてしまい、足元が汚れたが気にしない。街のはずれへ向かって休むことなく歩き続ける。
    大通りを横切って路地に入り、建物の間を通り抜けてまた別の路地へ。
    まるで猫の抜け道のような近道を使って私は家へ帰る。小さな子供である私が路地をすり抜ける姿は、まさしく野良猫のように見えるだろう。 そしてたどり着いた街のはずれ。朽ちかけた建物一番上の部屋。そこに点る橙の灯りを確認して、私は建物の中へ入った。

    ほこりまみれの建物の中を通り抜けて、奥にある階段を一番上まで登る。階段脇の、灯りが点いていた部屋のドアを開けた瞬間、美味しそうな匂いが鼻先をくすぐった。醬油と砂糖で豚肉を煮込んだ匂い。甘辛くとろりとした、食欲をそそる良い匂いに、きゅう、とお腹が空腹を主張した。
    雨に濡れた外套は扉の脇にあるフックに吊し、泥で汚れた靴はその場に脱ぎ捨てる。湿った靴下も脱いで、通りすがりついでに洗濯籠に放り込んでしまう。
    ぺたぺたと素足の足音を立てながら私は台所へ向かった。
    「ただいま、リヒト」
    リビングの一歩手前にある台所にそう声をかけながら、私はその中を覗いた。
    予想通り台所のコンロの前には、ひょろりと痩せた背の高い青年が立っていた。火にかけられた鍋の様子を見ながら、リズミカルな手つきでおにぎりを握っている。
    この青年が同居人のリヒトである。
    「おかえり、カナン」
    リヒトはそう言って手元から顔を上げ、こちらを見た。
    ――(本文より)

    遣らずの雨、とは帰ろうとする人を引き留めるように降って来る雨のこと。
    おっとりとしたキリンのような青年と、野良猫のような少女、それに綺麗な女の人が出てきます。淡々と日常を刻みながらお別れの準備をしていくような、そんなお話です。
     
    ※コピー本の画像はほぼ手書きなので雰囲気で見てください

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