こちらのアイテムは2016/11/23(水)開催・第二十三回文学フリマ東京にて入手できます。
くわしくは第二十三回文学フリマ東京公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

格子の向こう側

  • Eホール(1F) | E-11 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • こうしのむこうがわ
  • sunny_m
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 102ページ
  • 500円
  • http://www.pixiv.net/novel/sh…
  • 「それはまるで悪い夢の続きのような」
    企画・鳥散歩参加作品

    ――ノックの音に時枝は振り返る。鮮やかな眼差しは、このあわいにありながら未だ衰えることがない。初めて会った時から変わらぬ清かな光を宿していた。しかし、その表情にはどこか疲れた色が滲んでいた。
    「時枝、君、食べないといけないよ」
    そう言って、狐面は手に持っていた盆をテーブルの上に置いた。
    簡単につまめる小さなサンドイッチに温かな紅茶。美味しそうなそれらに、けれど時枝は手を伸ばそうともしない。ここに来てから、時枝はほとんど食事を摂っていない。それは狐面に対する反抗心からか、あるいは過度の負荷によって食事がのどを通らないのか。どちらにしろ時枝はその我の強さから、そうやすやすと狐面に助けを求めないだろう。
    「あまり強情を張るものじゃないよ」
    諭すような調子で狐面がそう言うと、ふん、と時枝は鼻で笑った。
    「これを食べたら私を帰してくれるって、約束してくれたら食べてもいいわ」
    「何度も言っているけれど、君を帰すつもりはないよ」
    そう言って、狐面はうっそりと含むように笑った。
    「ねえ、食べても食べなくても、私は君を帰すつもりなんてないんだからね。本気でここから帰りたいと思うなら、大人しく食べて体力をつけたほうがいいんじゃないかな」
    そう言って、狐面は時枝の強張った頬を撫でた。その白い肌の感触を愛でるようにすう、とひとつ撫でた。と、ぱん、と時枝は不快感をあらわにその手を叩き落とす。
    「止めて頂戴。私、貴方に触られたくないの」
    そう強い口調で言って、時枝は狐面を睨み付けた。
    ――(本文より)オリジナル作品。

    赤い花咲く木立と境界の川、そこは彼岸と此岸の境にある『あわい』。
    あわいにある館に独りで棲む狐の面をかぶった青年は、ある日、格子の向こう側にいた娘を攫った。
    赤い花咲く館には、狐面とゆかりのあるものたちが訪れる。
    人ならざるものが漂うように存在する、赤い花咲くその場所で繰り広げられるほの昏い交流譚。薄暗い雰囲気の、すこし不思議な場所の話です。
    恋愛ものです。でも暗い雰囲気です。

    嫌悪するのに惹かれてしまうような。
    欲したくせに触れるのが怖くて留まるような。
    あなたの幸いだけを願うと嘯くような。そんな話です。

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