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エチュード

  • Fホール(2F) | ウ-30 (小説|短編・掌編・ショートショート)
  • えちゅーど
  • 中町日名子
  • 書籍|その他
  • 500円
  • http://www.pixiv.net/novel/sh…
  • 2012/11/18(日)発行

  • かすみちゃんにあの日、見せたかったもの。
    兄と妹の、どこにでもある話。
    Bはある日、Aのために死んでしまおうと決意した。

    名前のつかない感情と関係をめぐる、ささやかな物語と140字小説。

    収録作品:かすみちゃん/エチュード1/エチュード2/エチュード140

    ***

     この傘に、かすみちゃんとふたりで入った。
     痩せて背が高くて、あまり多くの言葉を口にしないかすみちゃんは、木で言ったら柳のような、薄い感じがあった。それでも、同じ傘に入るほど近づけば、気配が濃いものだと、当たり前のようなことをそのとき思っていた。かすみちゃんの頭はわたしの頭より半分出るくらい上にあって、わたしは自分が深さのある傘を持っていたことに安堵した。
     日頃から好んで同じ傘に入るような馴れ合い方でもって、かすみちゃんと仲良くしていたわけではなかった、と思う。あのときだって、急な雨に降られて、かすみちゃんが傘を持っていなかったせいで、いっしょに入っただけだった。あちらがどういう基準でわたしに接していたのか、正確には、よく分からない。わたしといっしょに学校から帰ったり、その途中でいっしょにファーストフードに寄ったりすることが、かすみちゃんにとって、ほんとうに楽しかったのかどうか。
     ふたりで雨に降られたことは、それよりもっと前にもあった。そのときには傘がなかったから、商店街のマクドナルドに入って時間を潰した。かすみちゃんはカウンターの席にひとりでいる四十代くらいの女の人を見ていた。アイスコーヒーを飲みながら、細い目をやぶにらみにして、じっと眺めていた。あんまり眺めるので、なんだか悪い気がして、かすみちゃんやめなよ、と声を掛けた。
    「服」
    「え?」
     かすみちゃんはもう一度服、と言って顎をしゃくった。わたしは女の人の方をちらりと見た。女の人はチャコールグレーの長いワンピースを着ていた。左右非対称の、変わったデザインだった。右側の、足先まである長い裾の先が、雨に濡れて黒く染まり、しずくを落としていた。
    「服かわいい」
     言ってかすみちゃんは薄く笑った。
    「歳行ったらああいうカッコしたい」
     かすみちゃんは脚を組み直して椅子の背にもたれた。

    (「かすみちゃん」より)


    眠れない、と言ったら、そのうち眠れるよ、と返されて、そうかと目を瞑ってからどのくらい経っただろう。千年を越したら、時計を見てももうわからなくなった。眠りがどんなものだったか、わたしはだんだん忘れてしまったので、そのうち訪れたとしても、きっとそれとは気づかない。 #twnovel

    職場に着いたところで眉を描き忘れてきたのに気付いた。そしたら皆わたしが居ないといって探し回っている。腹が立ったので、自分のデスクの上に立派な眉を描いてやった。眉は案外くるくるとよく働き、上司からの受けもいいようだ。思わぬ休暇になったので、今日から箱根に来ている。 #twnovel

    (「エチュード140」より)

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