荷ほどきを終えた僕は、ワンルームの中央に立ち、真新しい家具と家電が揃った「僕だけの空間」をぐるりと見渡した。
ここから僕の新しい生活が始まる。
ベッドとローテーブル、大きな本棚を詰め込んだせいで、くつろげるスペースはそんなに広くない。人を呼ぶとしても一人が限界じゃないだろうか。
キッチンは学生用のマンションにしてはそこそこ機能が充実しており、二口コンロが備え付けてある。生活が落ち着いたら自炊をするつもりだ。
まだ段ボールの片付けは残っていたが、水色のシーツをかけたベッドに僕は寝転んだ。窓の外を見ると夕暮れ時。もう少ししたら、コンビニに食料を調達しに行ってもいいだろう。
「はぁ……」
それは疲れからか、安堵からか。ため息が漏れた。
少しでも偏差値が高い大学へ、というのが両親の、特に銀行員である父の強い望みだった。僕はそれを叶えるために努力し、見事に応えてみせたわけだが、目論見は別にあった。誰にも邪魔されずに一人暮らしをしたかったのだ。実家に僕の個室はあったが、ノックもなしに母が入ってくることが常であり、落ち着ける場所というわけではなかった。
手放した淡い気持ちのことについても思いを巡らせた。僕が一方的に片思いして、特に行動を起こさず、卒業式なのに声すらかけることができなかったあの子。大学生になれば、新たな出会いがあり、今度こそ一歩を踏み出せるだろうか。
思いついたのは、バイトだった。十分な仕送りは約束されているが、働くという経験が欲しいし、この引っ込み思案な性格も多少は改善したい。スマホでこの近辺の募集を探すと、チェーン展開しているファミレスを見つけた。
――うん、いいかも。
本当はこわい。接客業なんて。だけど、バイト先での人間関係を僕は期待していた。きっと、明るい人たちが集まるだろうから、僕も明るくなれるはず……。
応募フォームに必要事項を入力し、思い切って送信した。
これで本当に変われるだろうか。どんな人たちと出会えるだろうか。期待と不安が入り混じる中、僕は軽く目を閉じた。