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ショート・ホープに火をつけて

  • え-81 (小説|エンタメ・大衆小説)
  • しょーと・ほーぷにひをつけて
  • 惣山沙樹
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 360ページ
  • 1,000円
  • 2025/12/24(水)発行
  • 気になっていた女の子とセックスできた夜。突然の来訪者。そこから始まる奇妙な三角関係。彼らの間に渦巻くものは何か。そして意外な共通点とは。大学生たちの複雑な関係性を描いた現代ドラマ。

    【試し読み】

     前から綺麗な女の子だと思っていた。

     ショートの黒髪に、くりっとした二重の目、細い顎。身長は百五十センチそこそこ。いつも黒っぽい服装で、スカートを履いているところは見たことが無い。ピアスがいくつもあいていて、ハイライトというタバコを吸っている。

     それが彼女だった。

     俺は大学二年生の冬、学内の喫煙所で、思い切って彼女に話しかけてみた。

    「ねえ、ここでよく会うよね。学部は?」

     彼女はタバコの煙を吐き終えた後、ぼそっと言った。

    「文」

    「そっか。文学部か。俺は商学部」

    「ふーん」

     まるで興味なさげな返答に、俺はしまったなぁと思っていたのだが、それからは意外と話に乗ってくれた。彼女は言った。

    「そのタバコ、カッコいいよね」

    「うん。これに似合うオッサンになりたくて吸ってる」

    「きっとなれるよ。君さ、名前は?」

     彼女の方から聞いてくれるとは。俺はにやけながら言った。

    「荒牧純。ジュンは純粋の純」

    「ふぅん、純粋そうには見えないけど」

    「よく言われる」

    「あたしは荻野楓」

     カエデ、という名前の響きは、クールな彼女によく似合うと思った。この機を逃してはなるまい、と俺は思い切って切り出した。

    「連絡先、交換しない?」

    「いいけど」

     彼女のラインのアイコンは、初期設定のままだった。俺は飼っていた黒猫だ。

    「この猫、可愛いね」

    「名前はクロ。そのまんま」

    「へえ。あたし、猫好きなんだ。実家も今の家もマンションだから飼えないけどね」

     いい調子だぞ。俺は続けた。

    「それでさ、荻野さん」

    「楓でいいよ」

    「じゃあ、楓。今度飲みに行かない?」

     どうだ? 俺はなるべく楓の顔を見ないようにしながら返答を待った。

    「いいけど。何なら今夜でも」

    「マジで? じゃあ、どっか行こうか」

     そして、俺たちはタバコの吸える居酒屋に行った。俺も楓も、注文はビールだった。乾杯した後、俺は言った。

    「誘った手前、今回は奢るよ」

    「やった。あたしけっこう飲むよ?」

    「うん、俺も」

     喫煙者同士、気兼ねがなくていい。俺たちは酒とタバコを堪能した。つまみは枝豆と、牛タンくらいで事足りた。楓はかなり早いペースでビールジョッキを傾けた。俺も負けじと応戦した。

     話すのは、俺がほとんどだった。一人っ子であること。親と住んでいて、この大学には電車で通っているということ。猫のクロはもう居ないということを話した。

    「そっかぁ。あたし、猫飼えないから、触りたかったのにな」

    「ははっ、残念」

     お互いビールばかり五杯飲みきり、しばし無言でタバコを吸った。楓は顔色一つ変わっていなかった。いいぞ。こういう女の子は。思った通り、タイプの子だった。

     お代を支払い、居酒屋を出た。冬の風が激しく吹いていた。楓は俺の手を握ってきた。

    「今度はあたしが奢る。あたし一人暮らししてんの。うち来てよ」


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